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第61話
「なんで……、噛むの?」
ステファンに顔を向けると、噛みたくなったからだと、答えにもならない答えを囁かれる。そのまま唇を塞がれて、それ以上何も聞けなくなった。
「ん……、んん……っ」
包まれた中心への刺激が大きくなってゆく。フランは足を閉じようとしてもぞもぞともがいた。軽く下げられていたキュロットとタイツが膝の下にずり落ちてゆく。ステファンの左手が腰を抱き、するりと直 に撫でる。右手はフランのもどかしい場所をゆっくりと上下に擦り始めた。
(あ、だめ……)
逃げ出したい気持ちに襲われるが、大事な場所を握られているので動くことができない。
「あ、あ……、あっ! だ、だめ……っ」
ステファンの右手をどうにか掴んで引きはがし、カウチからよろよろ立ち上がった。キュロットに足を取られて転びかけたところを、腰を掴まれて引き戻される。背後から抱き込むような形でステファンの膝の上に乗せられてしまった。
え? と思う間もなく、ステファンが膝を使ってフランの脚を左右に開く。露 になった中心が丸い頭をピンと天井に向けて、ぴくぴく震えているのが見えた。
羞恥のあまり耳から首までがカーッと熱くなる。
「どうする? 自分で触るか? それとも俺に任せるか?」
つむじに吐息がかかる。こんな時まで自分で考えて決めなければいけないのか。そう思ったら、泣きそうになった。
小さく首を振ると「どっちだ」と笑われる。笑われても何も答えられない。もう一度首を振って、ぐすっと鼻を鳴らした。
「ああ、泣くな……」
耳の後ろに軽く唇を押し当てながらステファンが宥める。
「だったら、俺が決めるぞ」
そのまま、耳を噛まれて「ん……」と吐息が漏れる。首をすくめるのと同時に、張りつめていたものが再び大きな手に中に包まれた。ぎゅっと握りこまれ、先端をくるりと親指で撫でられる。
「あ……」
全身がブルっと震えて、ざわりと鳥肌が立った。腰の真ん中あたりから熱いものがこみ上げてくる。
「あ、あ……、ステファン……!」
両手をステファンの腿に突いて、ぎゅっと力をこめた。軽く噛まれていた耳に熱い舌が差し込まれる。フランを包んでいた長い指が上下の動きを大きくする。
「あ、あ、ああ……っ」
「フラン……」
耳に息を吹き込むように名前を呼ばれ、身体がビクリと震えた。ぎゅっと縛り出すように指を使われて、「あ」という短い悲鳴と一緒に、フランは白い液体を大きな手の中に溢れさせた。いつの間に用意したのか、麻の手巾 が素早く鈴口に被せられる。
「あ、あ……、ん……」
目を閉じて、ビクビクと震えながら溜まっていたものを吐き出す。ドキドキと早かった心臓が落ち着くのと一緒に、気持ちもすーっと凪いでいった。はあっと、満ち足りた吐息が唇から零れ落ちる。
「すっきりしたか」
ステファンに背中を預けたまま、こくりと頷いた。終わってしまえば、なんだか甘い心地よさが駆け抜けただけに思える。
「うん」
「なら、よかった」
ステファンは笑い「なかなかいい眺めだったぞ」と付け足した。
(いい眺め……?)
つむじにかかる吐息に、はっと目を見開く。まだ露 になったままの股間が目に入り、慌てて脚を閉じる。けれど、なんだか全体的にいまさらな感じが強い。
ステファンは「ちょっと、いい眺めすぎたかもしれん」と言って、ふうっと息を吐き出した。同時に尻の下にゴリっとした熱を感じて、フランはぎょっとした。
(こ、これは……)
再び心臓がドキドキし始める。
(ステファンの……)
間違いない。ヒートの時に何度も繰り返しフランの中に突き立てられたものだ。ステファンのそれはフランのものとは比べものにならないくらい立派で大きい。今も尻に押し当てられている熱塊は、フランの拳ほどの大きさに感じる。もしかすると、もっと大きいかもしれない。
なんだか熱すぎて、もぞりと尻を動かした。こんなものが、よくあんな狭いところに入ったものだと感心していると、尻の下のものがさらに膨らんで、頭の上から「はあ……」と切なげなため息が聞こえた。
フランははっとした。
(そ……、そうか……)
アルファもベータも、オメガと同じように、あれを出さなくてはいけないのだ。ならば、今のステファンも、きっと……。
「あ、あの……、ステファン……?」
「なんだ」
「ステファンも……、その、出したいよね? 僕、手伝おうか?」
「はあ?」
フランは半身をよじってステファンを振り向いた。ちょっとドキドキするけれど、恥ずかしいことではないとステファンも言っていたし、すっかりお世話になってしまった身としては、恩返しをしなければと強く思う。
ステファンは奇妙な顔をしていたが、すっかりスッキリしてしまったフランはテキパキと行動した。いったんステファンの膝から降り、タイツとキュロットを引っ張り上げて、元通りに小さくなったものを素早く隠す。
正面からステファンと向かい合うと、青い目をキラキラ光らせて、整った顔をまっすぐ見つめた。
けれど、美しいその顔は嫌いな食べ物を口に入れた時のように、奇妙に歪んだままだった。視線を移動させると、もっこりと膨らんだ股間が目に入った。
パッと顔を輝かせるフランを見て、ステファンはなぜか素早く、さっという感じで脚を組んでしまう。
「ステファン?」
「そ、そんな気は、遣わなくていい」
「でも……」
「いい。大丈夫だ。俺は、その……、慣れている」
自分でできる、と黒い瞳を明後日の方向に泳がせながら頷く。耳が少し赤かった。
「構うな。おまえはもう風呂に入って、寝ろ」
「えー……」
「えー、じゃない。いいから、はやく、寝ろっ」
なんだか納得できなかったが、ステファンがそう言うのなら仕方ない。フランはしぶしぶ、目の前でがっくりと顔を伏せてしまった人の言葉に従った。
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