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エリンの球根(3)

 勢いよく飛びついて、球根に手を伸ばした。 「エリンには、毒があるんだよ!」  半泣きになるフランに、ステファンはやけに落ち着いて「知っている」と答えた。 「し、知って……!」 「ああ、知っている。大丈夫だ。たいていの毒は、もう効かないから」  薬や毒の効果を調べる時、駆除対象のネズミを使うこともあるが、自分の身体を使って実験することも多い。だから、あらかじめ耐性は高めてあるのだと言う。 「そ、そうなの……」 「エリンに限らず、毒のある植物は多い。フランも気を付けるんだぞ」  くしゃりと髪を撫でられて、極限まで高まっていた怖さが行き場を失う。「だけど、本当にビックリしたんだよ」と、口の中で小さく抗議した。 「悪かった」  ステファンがにこりと笑って謝る。フランの頭を引き寄せて、軽く唇にキスをした。  ドキッと心臓が跳ねて、ビックリはどこかに飛んでいってしまった。 「エリンの毒は、抑制剤に使える」  唐突にステファンが言った。 「今は、ほぼ同じ成分を持つ別の植物が使われているが、毒性が強すぎて調整が難しい。一定の量に達しなければ効果がないから、どうしても毒が身体に残ってしまうんだ」  効果が表れるギリギリの量ならば、成分は全てヒートの抑制に使われて毒は身体に残らない。その調整が人の手で量れる限界を超えて微妙なのだと言う。 「エリンなら、大丈夫なの?」 「エリンのほうが毒も効能も効き目が小さい。その分、薬に使う時には調整がしやすいんじゃないかと考えた。実際に試してみなければ、はっきりしたことは言えないが、おそらく魔法で調整しなくても作れると思う」  へえ、と感心していると、ステファンは壁際の薬棚を開いて一本の小瓶を引き寄せた。すーっと飛んできた小瓶を手で掴み、それをフランに差し出す。 「今の配合で完璧に作った抑制剤だ。使う必要があるかどうかはわからないが、もしヒートを迎えたくない時は、飲んでいいぞ」  身体の変化を感じた段階で飲めば、ヒートは収まると言う。 「飲まずにヒートを迎えた時は、俺がなんとかしてやる」 「なんとか……?」 「なんとか」  にやりと笑われて、フランは真っ赤になった。 「薬はいくらでも作れるから、遠慮しないで飲んでいいぞ」  飲むとも、飲まないとも言えない。飲めばステファンにヒートを宥めてもらわずに済むけれど、それは、なんだか寂しい。  かといって、飲まないことを自分で選ぶのは、まるで、前回や前々回のようにしてほしいと自分から望んでいるみたいだ。仕方なくあんなふうになるのと、望んでなるのとでは、なんだか恥ずかしさに差がある気がする。 「飲むかどうかは、自分で決めていいぞ」  にやにや笑うステファンをチラリと見上げて、小瓶をぎゅっと握りしめた。ドキドキして、息が苦しい。  そこへ「失礼しまーす」と言いながらにアマンダがやってきた。「お昼にしましょう、ですって」と伝言を伝える。 「なんだか、いつもみたいに声が届かないらしいわ。そういうこともあるのね」  ステファンはかすかに眉をひそめたが、すぐに「行こう。遅れると、レンナルトがうるさい」と笑って、フランの背中に手を回して歩き出した。

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