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茨の棘①
窓の外から小鳥のさえずりが聴こえてきて、鈴真は閉じていた目を開けた。
カーテンの隙間から陽の光が漏れており、枕元に置かれた時計を確認すると七時前だった。
隣には鈴真を抱きしめながら眠る朔月がいる。どうやら、あれから疲れてふたりとも眠ってしまったらしい。しかし、汚れた身体は丁寧に拭われて、服も着せられていた。鈴真が先に眠ってしまったので、朔月がひとりで後始末をしたらしい。
──そういえば、あれだけ酷かった吐き気や頭痛が消えている。満月の夜が終わったからというのもあるが、朔月に抱かれて身体が満足したせいもあると思う。
鈴真は息がかかるほど近くにある朔月の寝顔をぼんやり見つめた。認めたくないけれど、やはり朔月は綺麗な顔立ちをしている。伏せられたまつげは長く、彼の肌に濃い影を落としている。形のいい唇がほんの少しだけ開いていて、それが妙な色気を醸し出していた。
鈴真は、朔月の顔を見てそんな感想を抱く自分が不思議だった。あんなにも朔月を嫌って、顔すら見たくないと思っていたのに。
すると、眠っていたと思っていた朔月が急に目を開けて、柔らかく笑いかけた。
「おはよう、鈴」
まさか、ずっと起きていたのか。
寝顔を見ていたことを知られたくなくて、鈴真はすぐに顔を背けた。
「どうかした?」
「何でもない……」
朔月の声を聴いていると昨夜の記憶が蘇り、何だか気恥ずかしくなった鈴真は、朔月に背を向けた。そうやって朔月から意識をシャットダウンしようとしたのだが、後ろから腕を回されて、ぎゅっと抱きしめられてしまう。
「体調良くなったみたいだね」
「わかったから、もう離せよ……」
「今日は学校休みだし、一日中こうしてたいな」
朔月が喋る度にうなじに吐息がかかり、まだ昨夜の余韻が残っているのか、その感触にぞくぞくと鳥肌が立つ。
「ふ、ふざけるな……! 僕はお前と違って忙しいんだ!」
「忙しいって、何するの?」
「勉強したいんだよ!」
これ以上朔月に触れられたくなくて身体を捩りながら抵抗すると、朔月が意外そうに口を開く。
「勉強? それなら僕が教えてあげるのに」
「誰がお前の施しなんか受けるか……!」
この学園に入学してから、鈴真は自分の予想以上に授業について行けていなかった。そもそも朔月に言われて学園に通っているだけなので、別に無理して勉強する必要もないのだが、真面目な鈴真は真剣に授業を受けている。
将来どうするかなんて今は考えても仕方ないが、それでも勉強はしないよりもしていたほうがいいだろうと思い、毎日予習復習をしているもののどの教科も難しくて、鈴真は次第に焦り始めていた。
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