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第1話
大安吉日。雲一つない快晴。
この良き日に結婚式を挙げる者は多いだろう。
花井 哲平 と山下 一成 の幼馴染である三浦 伸一 もまた、勤務先で出会った後輩――しかも男性とこの日晴れて夫夫 となった。
国内で同性婚法案が通過して三年。最初のうちはマスコミも取沙汰してはいたが、今ではごくごく普通の光景となっている。
そんな彼を祝うために、哲平と一成は周囲を森で囲まれたリゾート地にある結婚式場を訪れていた。
三人は小学校の同級生であり、家も近かったことからそれより前からつるんでいた仲だった。
そんな彼らも大学進学と共にバラバラになりはしたが、偶然にも哲平と一成は距離的にそう離れることがなく、就職した今でも機会を見つけては会うことが多かった。ただ伸一は一人離れた場所で暮らしていた。
連絡も取ることがなかった伸一から突然届いた招待状を受け取った二人は正直驚いた。以前からそういった噂は耳にはしていたが、まさか体育会系の伸一がフワフワした可愛らしい男性を娶るとは……。
困惑を隠せずに出席してみれば何のことはない。普通の男女カップルと変わらない華々しく幸せに満ち溢れたものだった。
結婚式も披露宴も無事に終わり、二次会までは二時間ほどある。引き続き、この式場の一画にあるレストランで行うということで今日は貸し切りになっているらしい。
時間を持て余した哲平と一成は、ヨーロッパの街並みを模した庭にある噴水の前のベンチに腰掛けると、晴れやかに澄み渡った青い空を眺めていた。
ジューンブライドとはいえ、日本では梅雨の時期と重なるため意外にも結婚式を行う数は少ないという。
昔から晴れ男と言われていた伸一の本領が発揮されたかのような天気。吹き抜ける風も爽やかだ。
「――すべてが予想外だったな」
ネクタイを少し緩めながらボソリと呟いた哲平を覗き込むように見つめたのは隣りに座っていた一成だった。
「ガキ大将の伸一があんなに可愛い男性と結婚するとか…。まぁ、それよりも相手が女性じゃなかったって事が一番驚いたけどな」
「そう?俺は何となくそんな気がしてた」
一成は少し俯くと、ベンチの座面に両手をついて子供の様に足をバタつかせた。
彼のほっそりとした白い頬や女性のような長い睫毛は幼い頃から変わってはいない。いつも誰かに揶揄われて半べそをかいている一成を守るのが伸一と哲平の役目だった。
小柄で華奢な体型は今も健在で、目を離したらどこかに連れ去られてしまうのではないかと気が気ではない。
だから――哲平は一成のそばにいようと決めた。
大学も就職先も彼といつでも会えるであろう場所を探して、多少ハードルが高くてもそのためだけに頑張った。
良く言えば一途、悪く言えばストーカーまがいの行為だと分かっていたが、彼から離れることが怖かった。
最初のうちは大切な友達、しかしそれが恋だと知ったのは一成に恋人が出来たことを知った時だった。
ものすごく自然に待ち合わせたカフェで紹介された時、胸の奥が締め付けられるように苦しくなって、飲んでいたコーヒーの味も分からなくなった。長身でイケメン、取引先の営業マンだった。
必死になって自分の内に秘めた想いを隠しつつその場は何とかやり過ごしたが、“会いたい”と連絡を取るたびに“ごめん”と言われるのがツラくて、しばらくの間一成とは会うことをやめた。
ある時、その恋人と別れたと泣きながらしがみついてきた一成の震える背中を抱きしめた時、この恋は本物なのだと確信した。でも――哲平は彼に何も言うことはなかった。
友達だから一緒にいられる……そう自分に言い聞かせ、一成に対する想いを燻らせていた。
「伸一と何かあったのか?」
一成の言葉に一瞬心臓が大きく跳ねた。自分の知らないところで伸一が一成に何かしたのではないかと心配になったからだ。
「――ずっと前だけど、俺……伸一に付き合ってくれって言われたことがあって」
「え?」
「あっ…、その時はちゃんと断ったよ。伸一も分かってくれたし。その頃から伸一も俺と同じ人種なのかなって気づいてた」
「――そうだったんだ」
一成がそういったセクシャリティを持っていることは知っていたが、まさか伸一もそうであったとは初耳だ。
哲平は自分だけがノーマルだということに劣等感を感じていたが、そのおかげで一成との関係も良好でいられるのだと思っていた。
一成に警戒され距離を置かれることが一番怖かったからだ。
「でもさぁ…。さっきの披露宴で流れた“馴れ初めムービー”で伸一がプロポーズの時に言った言葉、アレはちょっと笑えた。どう考えても伸一のキャラじゃないしっ」
「俺も。ちょっと肩揺れてたの気付かれないようにするの必死だった」
「だろ?だってあのムキムキ体型で『俺を照らす太陽になってください!』とか…。マジかっー!って思うよな。笑える…」
「うんうん。でも伸一らしいっていうか……一生懸命だったんだろうなって思う」
口元に握った手を押し当てて笑う一成は楽しそうに肩を揺らしている。
哲平もまた、脇腹を抑えながら声を抑えることなく笑った。
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