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第1話 出会い

 8畳のワンルームの部屋に響くテレビの音。 だが、この部屋の住人はテレビの前ではなく、テレビと向かい合わせに置いてあるソファーの上でヘッドフォンをしながら、寝転がっている。 「んっ、はぁ。今日もアイナちゃんは最高だ」 汚れた手を拭きながら、ヘッドフォンを繋いでるパソコンの画面を見る。 胸は異常にデカくて、腰はやたら細い。腕や足はそこそこ肉付き良くて、おしりまである金髪に碧眼の美女。裸体をさらし、両膝を立てた状態で瞳はうるんでいる。 ヘッドフォンからは、命令され、自ら秘部を弄り、大袈裟なくらいに喘ぐ声が聞こえる。 彼女の名は、アイナ。 たまたま見つけたアニメのエロ動画で声が俺好みで週に何回か彼女にお世話になっている。 「アイナ、やべぇ。その声、ホント好きだぁ」 見た目に反して高すぎず低すぎず中性的にも聞こえる声。この手の動画はだいたい甲高い声でわざとらしく聞こえるのに、アイナは目を閉じてれば、普通に彼女とヤってるようにも聞こえる。 再生回数が多いのは、俺みたいな男がいるからだろうか。 さっき、抜いたばかりだっていうのに、俺は再びアイナとの世界へ没頭した。 俺の名は、宮内和哉(みやうちかずや)25歳。 有名な大企業の子会社で一応エンジニアをやっている。 周りは男ばかりで、高校から男子校だった俺は、残念なことに彼女いない歴=年齢。 合コンに行くよりアニメを優先していたら、誘われもしなくなった。 黒髪で黒縁眼鏡。成人男性の平均的身長。 姉が2人いて、年が離れてるせいか、おもちゃにされてた経験から、少し女性が怖い。 けれど、経験したことのないセックスへの憧れは強く、性欲もそこそこ強く、動画を見ながら己の右手で処理をするしかない。 「どっかにアイナちゃんみたいな子がいればいいんだけどな」 パソコンの画面上では、バックの体勢で突かれながら、デカいおっぱいを揺らすアイナがいる。 挿入はもちろん、童貞の俺には未経験。 「挿れるのって気持ち良さそうだよな」 目を閉じ、アイナの喘ぎ声を聞きながら、挿れてるところを想像する。 数年間、こんな生活をしてるおかげで、やたらと想像力が豊かになってしまった。 「あっ、んっっっー!! んっ、んっー! イッちゃうぅぅぅ」 アイナがそう言えば、俺も同じく果てる。 「アイナちゃんで3回も抜いた。俺、マジでヤバいかも」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 昨晩、3回も抜いたせいか、視界と頭がスッキリした状態で会社へ到着した。 自分の席へ着き、パソコンの電源を入れる。 この部署にいるのは今は9人。平均年齢は40歳。一番年下が俺で、課長が俺のふた回り年上。 「そーいや、今日、中途異動の奴が来るらしいよ。しかも23。宮内の初後輩だな」 隣の席の大垣先輩は4歳上で、この春に結婚したばかり。あと3ヶ月で子供が産まれるらしい。人懐こくて、仕事も丁寧に教えてくれる頼りになる先輩。 「こんな時期に珍しいですね」 今は6月後半。こんな時期に中途入社ならわかるけど、異動っていうのは珍しい。 「本社のお偉いさんの身内らしくて、入社後1年は海外研修行ってて、帰国後はうちで研修だってさ」 「なるほど。それにしても、大垣さん、詳しいですね」 「えみちゃん(奥さん)の同期(この会社の人事)に聞いたからね」 そう言って、誇らしげに笑う。それが、褒めてくれって言ってる犬のように思えて、俺もこんな感じだったら、童貞をこじらせるわけなく、結婚できたんだろうか。と本気で思ってしまう。 毎朝恒例のミーティングの時間になり、課長から異動してきたという後輩くんの紹介があった。 「海外支社から異動になりました、西園寺(さいおんじ)ユーフォルスタリア紫音(しおん)です。日本での仕事は初めてですが、よろしくお願いします」 ハキハキと若干早口で簡単に挨拶する彼は、アイナちゃん男バージョンな金髪碧眼で長身。高くも低くもない声音で異国の王子かと思ってしまうほどの容姿。 この人、絶対女に苦労してないな。 俺が憧れてやまない生活とか送ってそうだよな。 「それじゃ、宮内。西園寺の指導はお前に任せるよ。初の後輩指導、頑張れよ」 課長から思いもよらない司令が下り、俺はかなり動揺してしまった。 「宮内先輩、よろしくお願いします」 目の前で俺よりも10センチ以上上から見下ろされ、丁寧に会釈される。 「それと、今日は西園寺の歓迎会やるから、全員早く仕事終わらせるように」 俺の入社以来、初めて入ってきたからか、やけに張り切ってる課長が言う。元々飲み会大好きなこの部署の人たちは喜んで、仕事へと取り組み始めた。幸い、今日は金曜日。みんな家族持ちなのに、何次会まで続くかわからない飲み会を楽しみにいつも以上にキーボードの早打ち音が聞こえる。

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