2 / 5
第2話
俺の向かい側の席は俺と入れ違いに異動していった人が使っていたもので、この2年間空いたままになっている。
西園寺の席はその席になった。
「前の仕事って今と同じような仕事だった?」
「営業に行くこともあったけど、基本はデスクワークだったよ」
海外生活の名残なのか、いきなり敬語なしで一瞬驚いたけど、年齢はたいして変わらないし、敬語も使われるのは好きじゃないから、まぁいいか。
「それなら、今日はこの資料の英訳をやってみて」
自分の抱えている資料からやり易そうなものを選んで渡した。
「うん、わか……あ、すみません。つい癖で」
初めて敬語じゃなかったことに気づいたのか、慌てて謝る。
その焦り方が何だか可愛く思えて、笑いそうになってしまった。
「気にしなくていいよ。俺も敬語使われるのは苦手だから」
「ありがとう。宮内先輩、優しいね」
またもや満面の笑みでそう言う。
見た目がアイナちゃんに似ているだけあって、不覚にもドキっとしてしまった。
こじらせすぎて、自分自身に引くっ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
終業時間になり、課長から仕事を終わらせるよう声をかけられる。
歓迎会はこの部署恒例の居酒屋。
「西園寺、終わりそう?」
彼の仕事ぶりは丁寧で早く、俺の抱えていた資料の半分近くの英訳を終わらせてくれた。
ぶっちゃけ、俺は英訳が苦手で残業してることも多かったが、西園寺は海外支社にいただけあって、俺とはケタ違いのスピードだった。
すでにみんなが居酒屋に向かっていて、残ってるのは俺ら2人。
西園寺の後ろからパソコンを覗くと、最後の英訳を終えるところだったらしい。
「すみません。今、終わりました」
焦ったように振り向いた西園寺とバッチリ目が合ってしまった。
吸い込まれそうな綺麗な青。
近くで見ると睫毛もなげぇ。肌も白くて、マジで同じ男とは思えない。
うっかり、西園寺に見惚れてしまい、視界がボヤけるまで俺は眼鏡が外されたことに気づかなかった。
「……コンタクトにすればいいのに」
西園寺が何か言ったけど小さくて聞き取れない。
「何? てか、眼鏡返せよ。それないと見えない…」
俺の言葉は最後まで紡がれることはなかった。
なぜなら。
西園寺にキスをされていたからだ。
待って!俺のファーストキスが初対面の男?
「先輩。オレの好みのドストライク。だから付き合ってよ」
えっと……?
ドストライクって、言った?
好みって…、俺のこと?
念のため、周りを見渡してみたが、ボヤけた視界じゃよくわからない。
ただ、先程確認した感じでは、ここに残ってるのは俺と彼のみ。
だから。
俺に向けて言われたということは一目瞭然なんだけど。
「え? 意味わかんないんだけど、俺、男だよ?」
まさか女とは思われてないだろうけど、念のために一応確認するように言葉にしておかなきゃ、思考がついていかない。
外された眼鏡を元のようにかけられ、視界がクリアになる。
かなり近い距離にいる西園寺は、何を考えているのかわからない満面の笑みを浮かべる。
「そんなこと言われなくても分かってるよ」
クスクス笑いながら、口元だけ笑みを残し、ジッと見つめられる。
「オレね、バイセクシャルなの。つまり、好きの対象は女だったり男だったりなのね。宮内先輩はオレが会った中で一番好みにピッタリ」
いやいやいやいや。
今日初めて会った人に俺のことなんてたかが知れてるけど、25年生きてて、好みだなんて言われたことないから!!
見た目の野望ったさや、長身の女性のような体型とか、好かれる要素なんて全くないんだけど!?
作者の独り言
だいぶおそくなりましたが、覚えててくれている方がいたら嬉しいです!別サイトから転載する際に加筆することもあるので、亀更新ですが読んでもらえてら嬉しいです。
ともだちにシェアしよう!