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第1話

大学入学で東京に上京して、何がしてみたかったか?って聞かれるとよく分からない。 だけど、入学してしばらくして落ち着いてから、おれは一軒のバーに足を運んだ。 そこはインターネットで調べた所謂ゲイバーというやつで、未成年だったけどそれでもそこに行けば、誰か自分と同じ気持ちを共有できる人がいるんじゃないか、そう思った。 初めて訪れたゲイバーは、思っていたより遥かに大人の雰囲気で、ドアを開けた瞬間思わず尻込みをしてしまった。 そこで声をかけてくれたのが航平さんだった。 サラリーマンなのだろうか、スーツ姿がとても似合っていて思わず見とれてしまった。 そんなおれとカウンターに並んで座ってくれて、話を聞いてくれた。 オーダーをするときに、耳打ちするみたいに耳元で「未成年だろ?ノンアルコールにしたから。」と言われて真っ赤になった。 そんな航平さんと話をして一時間と少し「もう少し二人で話がしたい。」といわれて頷いた。 そこに、もしかしてって気持ちが全くなかったかといえば嘘になる。 ホテルの部屋に誘われて、そこがラブホじゃなくて普通のホテルだったんだけど、それでもその時にはもう航平さんしか考えられなくなっていた。 男同士のセックスはインターネットで調べていた。 だけど、良く分からなくて何の準備もしていないおれに、航平さんは丁寧に準備の仕方を教えてくれた。 聞いている最中はすごく恥ずかしかったけど、もしきちんと準備をしなければ大惨事だったことを考えると、よかったのだと思った。 初めてでガチガチに緊張していたおれを、航平さんは優しくリラックスをさせながら抱いてくれた。 ゲイに人気のあるがっちりした体つきの男らしいタイプでも、きれいな容姿でもないおれが慣れない挿入に涙を流して顔をぐちゃぐちゃにしている姿なんて、滑稽以外の何ものでもない筈なのに航平さんは、嫌がるそぶりも見せず、ただひたすら優しかった。 だから、好きになるなって方が無理だったのだ。 だって、そんな優しいセックスを誰かとできるなんて思って無かったのだ。 優しく髪を撫でて、そっとキスを落としてくれて、指を絡ませてくれる。 そんな、まるで恋人同士の様な行為だった。 思ったよりごつごつした指も、熱い昂ぶりも、汗のにおいも何もかもが初めてのことで、ただ、ただ翻弄されただけだった。 明らかに行為になれていた航平さんには、つまらないものだったと思う。 けれどもおれの中で航平さんが弾けて、その後おれも達して。 けだるい雰囲気の中お互いにシャワーを浴びて一息ついていると、航平さんはおれに「連絡先を交換しないか」と聞いた。 断る理由等、何もなかった。 それから航平さんは数週間に一回、おれに連絡をくれる様になった。 一緒に食事をしてそれからホテルへ行く。 食べるお店は毎回違ったけど、それ以外は一緒。 おれとのセックスがそんなに良かったなんて考えられないから、明らかに初めてだったおれは、性病とかそういったリスクが低いのだろうと結論付けた。 実際、セックスをするときは必ず避妊具をつけていた。 それでも、それで充分だった。 性行為をしている瞬間、航平さんは、おれだけを見てくれていた。 知っているのは携帯の番号と名前だけ。 どういう仕事をしているのかも、家がどこなのかも何も知らなかったけれど、それで充分だった。 数時間だけでも、おれに時間を使ってくれるだけで、それこそ飛び上がるほど嬉しかった。

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