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第1話

 僕は兄が大嫌いだ。  僕の兄、ヴィクターの性格は最悪である。どこが最悪かって? 僕のいまの様子をみれば誰だってそう思うにきまってる。 「おや、ティム。どうしてそんな顔しているんだ?」  兄が爽やかな声でいう。でも僕は動けない――椅子の背に腕を回された上にロープで縛られているからだ。 「ヴィクター、解いて……」 「おーやおや。今なんていった?」兄はにっと微笑んだ。 「なにがヴィクター、だ。兄様と呼べ」  ロープがぎゅっと締まり、ズボンの布を通して内腿にくいこむ。僕はうめいたが、ロープが痛いからじゃない。縄魔術のために僕の体に異変が起きているせいだ。 「あ、あん、やっ、兄さん、ほどいて――ほどいてってば」 「まったく」兄は腕を組む。 「何をいってるんだ。いつもの実験じゃないか」 「僕で実験しないで、魔物で実践すればいいだろ!」 「人に効かないなら魔物に効くわけないじゃないか。はじめてでもないのに、ティムはいつもききわけがないな」  ヴィクターのロープは特別だ。僕が体をよじらせたり力をこめたりしても、けっして切れないし解けない。なにしろ、ふつうなら魔物を縛るために使うものだから。  ヴィクターは王城勤務の魔術師だ。いつも結界張りだの魔物退治だのに駆けまわり、毎回きっちり成果をあげる。得意とするのは縄魔術だ。紐状のものに魔力を通じさせてあやつり、結び目の印は物体や人体にいろいろな作用を及ぼす。兄の縄魔術は超一級で、魔物退治だの封印だのにひっぱりだこだ。すらりと背の高い金髪に青い目をして、口もたつし、僕が知るかぎり僕以外のみんなに人気がある。  僕だって城で働いているが、施設部という地味な部門の底辺雑用係だ。兄は僕と同じ職場の人にも知られている。ぶっちゃけ城の有名人、ちょっとしたアイドルという感じだ。王様も兄には目をかけているという噂だし、兄を悪くいう人に会ったことがない。  おまけにたいていの人は、僕がヴィクターの弟だと知ったとたん、あんなイケメンと間近にいられていいね、なんていって、男女問わず僕を羨ましがる。中には僕を通して兄に近づこうとする連中だっている。  僕だってヴィクターが兄でなければ、遠目にみて憧れることもあったかもしれない。いまいましいことに縄魔術で魔物と戦う兄はなかなか、かっこいいのだ。ただ、ヴィクターがあれほど魔物と戦えるようになった理由を僕は知ってるから、凄いなんて思わないけどね。  こんなことを僕がいっても誰も本気にはしてくれない。せいぜいが身内を褒めないなんて謙虚だね、と思われるか、さもなければ兄に嫉妬してると思われる。  嫉妬だって? そりゃ僕は兄とちがって背も低いし、さえない茶色の髪でしかも童顔で、何年も城で働いてるのに覚えてもらえず、ときどき新人に間違われたりしてる。三歳しか違わないのにどうしてこんなに外見がちがうのか。きっとそれぞれが両親の片方の遺伝子しかもらわなかったんだろう。でも僕は断じてヴィクターに嫉妬なんかしていない。  僕は兄が嫌いなのだ。理由? 「今日は新しい印を試す。そのまえにいつもの準備をするが――」  ヴィクターはそういって手袋をはめた。手袋は彼のトレードマークだ。城では絶対に外さないから、兄のファンが渡す定番の贈り物はいつも手袋で、手袋だけでタンスがひとつ埋まるほどもっている。色も素材もいろいろで、僕は宝石がついたものもいくつか見た。しかし今はめた手袋は漆黒で何の模様もない、ただの手袋だ。家で兄が手袋をはめるとき、これ以外は使わない。  手袋をはめた長い指がくいっと宙に印を描き、僕を縛るロープが熱くなる。僕は首をふってその感覚を逃そうとする。ヴィクターがこんなふうに縄魔術の練習をはじめたのは十五歳のときだ。僕は十二歳で今よりさらにチビだった。成長期の兄に腕力で逆らうなんて無理だった。  あれから十年経っても僕はヴィクターに逆らえない。今の兄は腕力と魔力の合わせ技をつかうのだ。 「あっ―――」  ロープは僕を動けないよう椅子にはりつけたままうにうにとよじれはじめた。どうなってるのかよくわからないのだが、服の繊維がめりめり裂ける。魔物退治のときの兄の第一の技だ。相手によって微妙に力を調節して、おとなしくさせる技。たしかに僕は身をもってわかってる。裂けた服の隙間からロープがはいりこみ、肌のあいだをするする這っていく。それは僕の足のあいだや背中の下まで達する。 「くっ……」  僕はいつも声をこらえようとする。声なんか出したら兄を喜ばせてしまうからだ。兄にとって僕は実験動物で、どう感じているかなんて本当はどうでもいいくせに、反応すると嬉しがるのはわかっている。ヴィクターは変態なのだ。弟が自分の縄魔術でどうしようもなくなっているのをおもしろがるなんて、変態以外の何物でもない。  でもいつも、最後までこらえるのは無理だ。僕の足首にからみついたロープの先が内股をのぼる。ペニスの先をかすめても僕はまだ我慢しているが、背中から下りた別のロープが尻の割れ目をさがっていくともうだめだった。 「あ、いや、ん、あん、兄さんっ」 「我慢しろといってるだろう。ティムは弱いから俺も抑えてやってる。これで魔物がおとなしくなるなら魔術師は必要ない」  僕は魔物じゃないし、人体実験なんて非人道的だし、それにこんなところを弄られればそりゃ魔物だっておとなしくなるだろう、そう怒鳴りたいのだけどすぐにそれどころじゃなくなる。たいていの魔術師が使う縄魔術は、単に力で絞めつけるだけの破壊系にすぎないけど、ヴィクターの縄魔術は自由自在で、繊細なこともできる。だからこんな風に僕を……ああん、あ、だめ……そんなところ……さぐっちゃ……。  兄の縄魔術は最初からこんな風だったわけじゃない。この手の実験がはじまったのは四年前くらいからだ。ヴィクターのロープは特別製だ。なめらかでよくすべり、先端がキノコの傘のようにふくらんでいる。兄は冷静に僕を観察しながら指先で宙に印をむすび、ロープをちょいちょいと動かした。いまや服の裂け目から僕の体を弄っているロープは三本、いや、四本……?  胸のあたりを絞めつけていたロープが一瞬ゆるんだと思うと、乳首に触れてこすりはじめる。僕は自然に体を揺さぶりはじめている。これが気持ちいいなんて、絶対みとめられない。みとめられないのに! 「……あんっ、あ、や、」 「はしたないやつだ」  ヴィクターがため息をつき、呆れた声をだす。僕はびくっとするが、とたんに尻の割れ目をなぞっていたロープの先端が穴のまわりに吸いつくように押しつけられて、何の返事もできなくなる。兄のロープ(たち)は僕の腕をしばり、椅子に座らせたまま足を大きくひらかせ、腰をもちあげる――あ、あ、だめ、そこに入っちゃ――や……僕の下半身はどこから出てきたのかわからない液体でぐちょぐちょに濡れていて、ロープの先端がぷちゅぷちゅと音を立てる。僕の中でふくらんだような感じがする。いまいましいことにこれが中を突くと、すごく―― 「何度やっても、黙っていられないらしい」  べつのロープが僕の唇に触れ、口をおしひらき、声をふさごうとする。僕はやみくもに入ってきたものをしゃぶりはじめる。しゃぶりながら目だけでみあげると、兄は魔術師の黒い服をきたまま眉をひそめて僕をみている。唾液が顎をたれてみっともない顔をしているのがわかるけど、ヴィクターのロープは僕の体をあちこち――好きなように弄りまわしているからどうしようもない。  縄魔術を使う魔術師は他にもいるが、兄のように何本も同時に操れる者はいない。こんなふうに僕の腕と足を押さえたまま、乳首とペニスと、中と、口まで……兄が魔物退治に名をはせるわけ――あ、あ―――そんな……  僕はロープで支えられたままがくがく腰を揺らして吐精するが、中にいるものはまだ動いているし、僕の腰は勝手に揺れてしめつけてしまう。ああ、もう、だめ、もうだめ―― 「そろそろだな」  僕の視界はとっくにかすんでいるが、兄が手袋の裾を引いたのはぼんやりみえた。 「ティム、今日試すのは裏返しの魔術印だ。どう説明すればいいか……いま俺の縄が触れているおまえの皮膚領域の感覚が魔術次元変換によって折りたたまれ、一度裏返され、層になる。比喩的にいえば、感覚をパイの皮のように層にこねる感じだな。これで何が起きるかといえば、感覚の大幅な増大だ。膨らんだパイ皮のように感覚が細かく増幅されるから、この印を当てられれば縄に縛られた魔物がどうなるか――ティム、聞いているか?」  兄は意地悪でこんなことをいうのだろう。そもそも僕はすでにまともに話を聞ける状態じゃない。がくがくとうなずいたのは早くこれを終わらせてほしかっただけなのに、次に僕を襲ったのはこれこそわけのわからないとしかいいようのない衝撃だった。 「あん、あ、あ、ひっ――ああ、にいさ――」  ロープが拘束された体を大きく揺さぶり、視界が兄の黒い服に覆われた。黒い手袋が僕のペニスに触れる。増大された感覚やらはナニコレ、なんて思う暇もあたえてくれなかった。口をふさいだロープが消え、僕はたまっていた唾液をこぼしながら叫んでいる。もう、気持ちいいとかそんなのを超えている。ヴィクターの手は僕のペニスをゆるくにぎる。下の穴に咥えたロープが僕の中を何度も突いて、今までだって僕はさんざん実験台にされていたけど、こんなのははじめて……  僕は城の動物園にいるオットセイのように首をのけぞらせ、頭を真っ白にしたまま意識を飛ばした。

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