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第5話
そして、今、また――
「ティム。どうしてそんな顔をしている」
ふりだしに戻ったように兄のロープが僕の手首を縛っている。痛みはない。そのかわりロープの触れた皮膚の下がじくじくと熱くなり、腕から僕の体全体に下りていく。
「おろして、兄さん……」
僕がやっとそういっても、兄は表情もかえずに指で宙に印を描いただけだ。僕はベッドの天蓋から下がるロープに左右の手をつなぎとめられ、上体を起こされている。家に僕を連れて帰ったヴィクターは最初に縄魔術を駆使して僕を全裸に剥き、そのまま繋いでしまったのだ。
「ティム、俺がいないあいだに何をした」
兄は僕の体をじろじろと眺めた。
「俺がいないあいだに――俺が! じっくりおまえの中まで調べる必要がある。まったく、こんなことなら……」
「兄さん、僕は――」
僕は何かいいかけたが、両足に絡んだロープに大きく股をひらかされて言葉を失った。太腿に絡んだ別の一本が僕のペニスをしらべ、別の一本がうしろに入りこもうとしている。背中をたどった別の一本が先端を僕の乳首に吸いつかせた。
「あ、あん、や、あ……」
「おまえがこんな人間だとは思わなかった」
「兄さん……でも、僕だって……」
「そんなにここが寂しかったのか?」
「あ、ああああ!」
僕は声をあげ、中をつらぬく兄のロープを受け入れた。くちゃくちゃ音をたてながら僕の中をゆっくり動く。甘美な感触に腰が勝手に揺れ、もっと欲しいと思ってしまう。僕は目をあげた。兄の冷たい視線に体がすくむような、逆に興奮するような感覚が同時にやってくる。
「あん、兄さん、兄さん……僕……僕…」
「なんだ」
「兄さんにしてほし―――あん、はぁ、実験じゃなくて」
ロープがクイクイと奥を突く。リズムにあわせて僕は腰を上下する。自分がいやらしい動きをしているのはわかっていた。それでも僕は哀願した。
「僕は……兄さんのが……ほしい……」
僕はやっと悟ったのだ。アレンのセックスはひどかった。あんなのごまかし以下だった。
みしりとマットレスが下がった。ヴィクターがベッドに片膝をのせ、口で咥えながら手袋を外し、ぽとりと落とした。
僕の体をまさぐっていたロープがするっと抜け、その感触に僕はたまらず息を吐き、声をもらす。突然腕が解放され、顔をあげるとヴィクターはベッドの上に膝立ちになって、ひどくゆっくりに思える動作でシャツを脱ぎすてていた。金色の茂みのなかに雄が立ち上がっている。僕のはこれまでさんざんみられているのに、兄のをみるのは初めてだ。兄は僕を背後から抱いた。すでにさんざん縄魔術で弄られ、待ちかまえていた僕の体は、兄につらぬかれたとたん勝手に歓喜の叫びをあげた。
僕のなかにいる兄は、ロープよりも太くて、もっと……もっと……あ、あん……揺さぶられながら僕は薄目をあけ、兄の手が僕のペニスをもちあげるのをぼんやりとみつめた。指先がくいっと曲がり、僕の皮膚の上で印を描く。その動きに見覚えがあった。裏返しの魔術印、感覚増幅の魔術だ。
「ティム」
ヴィクターが首のうしろで何かいっている。
「俺が嫌いか?」
とっくに声は出なかった。魔術で増幅された快感を受け取るだけで精一杯の僕に、兄は何をいわせたいのだろう。裏返された本音は好きや嫌いなんて言葉じゃ到底足りないし、僕は揺さぶられながら首を何度かがくがく振る。答えはハイでもイイエでもなかった。
「ティム」
それでも兄は僕になにかいわせたいらしい。
「いえよ。俺が嫌いか?」
「あんっ、ふ、あん、僕は……兄さん……なんか――ぁ…」
「なんだ?」
「嫌いだって――――嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い」
ふふっと息が吹きかけられ、兄が笑ったのがわかった。
「俺もおまえが嫌いだよ、ティム」
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