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第1話 純潔の章

 その小さな王国はふたつの帝国のはざまにあり、第七王子は生まれた瞬間から、いずれどちらかの後宮に召されるよう定められていた。第七王子は国と国をつなぐ御子であると、妃が身ごもる前から星読みが告げていたためである。  赤子のうちに王子は白雪と名づけられたが、名前のままに成長した。王子を生んだ妃はそれからまもなく亡くなったが、王子は乳母に育てられた。雪のように白い肌、血のように赤い唇、月のない夜のような髪をした王子であった。  小さな王国は長年、拡張を続ける南北の帝国にはさまれたまま政治の駆け引きに揺れ動いていた。王子が北へ行くか南へ行くかは、その時が来るまで誰にもわからぬことだった。しかしいずれ来る後宮入りの日のために、王子には少年のころから護衛兼教育係として七人の騎士がつけられた。  彼らは騎士であったが、王子に最善の教育をほどこすために選ばれた者たちで、寛容、慈愛、分別、忠義、節制、純潔、勤勉と呼ばれた。  王子は寛容の騎士に読み書きを教えられ、やがて王国の蔵書室を慣れ親しんだ場所とした。慈愛の騎士には騎馬や護身術、毒の知識や懐に潜ませる剣について、分別の騎士にはこの国以外の場所で通用する教養をあまねく教授された。  忠義の騎士が教えたのは、この小さな王国がどのような基盤に成り立っているか、ということであった。千年以上ものあいだ大国のはざまにあって、どちらの国にも属さないまま独立してあるにはどのような心が必要か。節制の騎士は、王子の口をうるおす水や腹を満たす食物、身にまとう衣服が誰によってどのように作られ、王子のもとへ来るのかを教えた。  純潔の騎士が白雪王子を最初に教えたのは、王子が夢で精通を迎えたあとの、新月の夜であった。純潔の騎士はひとりではなく、勤勉の騎士を伴っていた。王子は勤勉の騎士には幼いころから親しんでいた。子供の常として、ときに反抗的になることもあった王子を忍耐強く諭したのが勤勉の騎士だったのである。  一方、王子が純潔の騎士と話すのはこれがはじめてであった。騎士は輝く金の髪をいただいた青年で、眸は草を思わせるくすんだ緑色であった。その夜、窓の外は王子の髪色と同じ漆黒の闇に包まれていた。純潔の騎士は勤勉の騎士を壁に立たせたまま、王子の閨のとばりをおろし、その隣に座った。 「白雪王子。これからあなたが学ぶことは、未来、あなたがこの国を離れたあと、あなたの唯一の武器となるかもしれない技術です」 「それはいつなんだ?」王子は無邪気にたずねた。 「どうして勤勉がそこにいる?」 「私ひとりでは教えられないことがあるからですよ。でも、まずは王子に、ご自身のお体について教えましょう」 「自分の体のことならわかっている」王子は得意げにこたえた。「今日ははじめて、慈愛から一本取った」 「それはようございました。でも私がお見せするのは、王子のお体のまったく異なる側面なのです」  そして純潔はその日、王子に訪れたばかりの精通の知識を教え、みずからの衣服を脱ぎ捨て、大人の男の体がどのようなものかを見せた。勤勉はそのあいだ、閨のとばりの外側で身動きせずに待ち、夜が更けたあと、純潔と共に去った。  七人の騎士による白雪王子の教育はその後もつつがなく進行した。寛容は書物の知識を、慈愛は騎馬と剣を、分別は教養を、節制は城の外の人々の暮らしを教え、勤勉はいつも王子につかず離れず、義務を果たすことを教えた。  王子は純潔からも教わったが、この騎士が王子のもとへ訪れるのはつねに夜で、つねに勤勉とともにあらわれた。純潔が王子に教授したのは閨房術であった。図版とみずからの体で手本を示しながら、王子の固く閉じた蕾をゆるめ、ひらかせ、王子自身の内側にどのような悦びの泉が眠るかを教えたのである。  王子に与えられたすべての教育は、時間をかけ、段階を追って行われた。純潔の授業も例外ではなかった。それに純潔は、この授業で覚える悦びは、いずれ王子をわがものとする後宮の主のためのものである、と教えることを忘れなかった。  王子は張り子でこしらえた陽物や玉をわが身に受け入れるのに慣れ、口淫の技を教えられた。やがて出会う後宮の主を誘い、魅惑し、つなぎとめるすべを学んだのである。勤勉は最初のうち、純潔と王子を見守るだけだったが、やがて授業に加わるようになった。  白雪王子はよい生徒であった。はじめて純潔に相見まえたときから数年経ち、王子は美しく健やかに成長した。閨のとばりの内側で授業を重ねるうちに、自身の快楽を味わいつつも、その波にけっして溺れず、教師たちを満足させることができるようになった。  やわらかな褥のうえで、薔薇色をした両胸の尖りを純潔の騎士が弄ると、王子の白い顔は紅に染まり、ひらいた足のあいだでは支度の整った蕾が待っている。純潔と勤勉は王子をよく指導した。黒髪を乱しながら下の蕾と上の口でふたりの騎士を慰める技にも長けたころ、王子はもうすぐ十八になろうとしていた。

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