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騎士を目指して~第1話 英雄の誕生~

 アルデリア王国歴、521年。  英雄が生まれた。  魔物に脅かされるこの王国を救ってくれた異世界から来た勇者。  勇者とともに国を回り、10年にもわたり、勇者を支えた仲間たち。  その勇者パーティーは王都に戻り、凱旋のパレードを行った。  通りには人々が詰めかけ、熱狂した。  その、パレードを私は幼馴染のドナートとともに王宮のバルコニーから見ていた。  黒髪黒瞳の、勇者、ショーヤ。  フードを被り、顔を見せない謎の大魔導士、グレアム。  タンク役のドワーフのボルドール。  術士のエルフのミハーラ。  回復術士のヒューマンのセテル。  斥候役のシーフのロウ。  戦士のダンカン。  屋根のない馬車に乗り、集まった民衆に手を振っている。 「凄いなあ。魔物いっぱいやっつけたんでしょ?」 「だって、聞いてる。」 「かっこいいなあ。僕も勇者みたいになりたい。」 「じゃあ、俺は大魔導士を目指してみるか。」 「ほんと?勇者と大魔導士みたいに英雄になれる?」 「わからないな。でもまだまだ魔物はいるし。」 「僕、頑張って騎士になる。魔物をいっぱい倒して、国を守るんだ。」  6歳の私、クエンティンと同じく6歳のドナート。まだまだ小さい私たちが会話する姿に、周りの大人たちは微笑ましいという表情で見守っていた。  私、クエンティンは、アルデリア王国の王族、王の5番目の子として生まれた。  メイルか、フィメルかはまだわからないが、ハディー譲りの容貌を持つ私はフィメルであれば、という目線で見られた。癖のない、さらりとした薄めの茶色の髪、卵型の顔、目の色は琥珀色で、天使のような、とも、お人形のようだとも言われた。  幼馴染のドナートは、リュシオーン公爵の3番目の子で、メイルではないか、と思われている。  赤銅色の髪と緑の目、くっきりとした眉、涼しげな目元は、将来フィメル泣かせになるのではと思うくらい、私とは正反対の容貌だった。  ドナートのハディーも私のハディーも貴族としての位が低く、後継争いには程遠かったため、お互いの遊び相手に選ばれ、ほとんどの時間を一緒に過ごしていた。  勉学もマナーも魔法も、剣の時間も。お互いがライバルであり、友人だった。  私たちの住む後宮は王宮から少し離れていて、森の中にあるこじんまりした館で、別名『森の離宮』と呼ばれていた。  侍従も小間使いも少なく、料理人も他の後宮とは違い、見習い含めて3人ほどしかいなかった。その代わり、かなりの腕前で、平民の料理もこっそり作ってくれた。  次代の王に、と必死になっている兄たちを尻目に、のんびりと過ごしていたのだった。  特に将来のことを考えてはいなかったそんな私に、英雄の姿は衝撃的で、のちの人生を決定付けるものだった。  それからの私達は身の入らなかった王族に施される様々な教育に、真剣に取り組むようになった。  手を抜いていた私たちの態度がころりと変わったのに、教師が驚いていた。  とにもかくにも、それから私たちは必死に学び、強くなろうとしていた。

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