1 / 30
騎士を目指して~第1話 英雄の誕生~
アルデリア王国歴、521年。
英雄が生まれた。
魔物に脅かされるこの王国を救ってくれた異世界から来た勇者。
勇者とともに国を回り、10年にもわたり、勇者を支えた仲間たち。
その勇者パーティーは王都に戻り、凱旋のパレードを行った。
通りには人々が詰めかけ、熱狂した。
その、パレードを私は幼馴染のドナートとともに王宮のバルコニーから見ていた。
黒髪黒瞳の、勇者、ショーヤ。
フードを被り、顔を見せない謎の大魔導士、グレアム。
タンク役のドワーフのボルドール。
術士のエルフのミハーラ。
回復術士のヒューマンのセテル。
斥候役のシーフのロウ。
戦士のダンカン。
屋根のない馬車に乗り、集まった民衆に手を振っている。
「凄いなあ。魔物いっぱいやっつけたんでしょ?」
「だって、聞いてる。」
「かっこいいなあ。僕も勇者みたいになりたい。」
「じゃあ、俺は大魔導士を目指してみるか。」
「ほんと?勇者と大魔導士みたいに英雄になれる?」
「わからないな。でもまだまだ魔物はいるし。」
「僕、頑張って騎士になる。魔物をいっぱい倒して、国を守るんだ。」
6歳の私、クエンティンと同じく6歳のドナート。まだまだ小さい私たちが会話する姿に、周りの大人たちは微笑ましいという表情で見守っていた。
私、クエンティンは、アルデリア王国の王族、王の5番目の子として生まれた。
メイルか、フィメルかはまだわからないが、ハディー譲りの容貌を持つ私はフィメルであれば、という目線で見られた。癖のない、さらりとした薄めの茶色の髪、卵型の顔、目の色は琥珀色で、天使のような、とも、お人形のようだとも言われた。
幼馴染のドナートは、リュシオーン公爵の3番目の子で、メイルではないか、と思われている。
赤銅色の髪と緑の目、くっきりとした眉、涼しげな目元は、将来フィメル泣かせになるのではと思うくらい、私とは正反対の容貌だった。
ドナートのハディーも私のハディーも貴族としての位が低く、後継争いには程遠かったため、お互いの遊び相手に選ばれ、ほとんどの時間を一緒に過ごしていた。
勉学もマナーも魔法も、剣の時間も。お互いがライバルであり、友人だった。
私たちの住む後宮は王宮から少し離れていて、森の中にあるこじんまりした館で、別名『森の離宮』と呼ばれていた。
侍従も小間使いも少なく、料理人も他の後宮とは違い、見習い含めて3人ほどしかいなかった。その代わり、かなりの腕前で、平民の料理もこっそり作ってくれた。
次代の王に、と必死になっている兄たちを尻目に、のんびりと過ごしていたのだった。
特に将来のことを考えてはいなかったそんな私に、英雄の姿は衝撃的で、のちの人生を決定付けるものだった。
それからの私達は身の入らなかった王族に施される様々な教育に、真剣に取り組むようになった。
手を抜いていた私たちの態度がころりと変わったのに、教師が驚いていた。
とにもかくにも、それから私たちは必死に学び、強くなろうとしていた。
ともだちにシェアしよう!