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騎士を目指して~第2話 園遊会~

 私には兄が4人いる。  6歳年上のジェスロン、5歳上のモーデス、3歳上のメッシーナ、3歳上のウェザレル。  ジェスロンとモーデスに私は嫌われていて、何かというと虐められていた。  子供のすることで、髪を引っ張られたり罵倒されたりくらいだが、悪意に晒されるのは気持ちのいいものではなく、最初の頃は泣いていた。  そのことをドナートのほうが悔しそうにしたり辛そうにしてたので、私がドナートにそういう表情をさせているのかと思うと、もっと苦しいので、無視する方向にした。顔を合わせないような努力もした。  それでも、王族の行事や公務などは避けて通れるものではなく、彼らの取り巻きとともに私への誹謗中傷は広まっていくのだった。 『地味な髪に目の色だし、だんまりで可愛くない』 『生意気だ。』 『兄に敬意を払わない。』  聞こえよがしに囁かれる悪意。お茶会や園遊会、誕生日祝いのパーティーなどでそれは拡散された。 「あいつら、クエンのこと、よくも。」  その度に憤るのは優しい幼馴染ドナートで。 「大丈夫だから。鳥がさえずっているくらい思っておけばいい。」  私がそういうと、ドナートはくしゃりと表情を崩して、私の髪を乱す。その手が心地よくて、嬉しくなる。 「クエンは器が大きいな。俺はダメだ。あいつらは許せそうにない。」  顔を赤くして言うドナートは可愛らしくて、私はこんな幼馴染を持てて幸せだと思った。 「ドナートがそばにいればいい。有象無象の輩なんて路傍の石と同じことだ。僕にはドナートと、ハディーと、世話をしてくれる優しい彼らがいればいい。」  私は薄情だ。自分が大切なものは大切にするが、そうでないものは切り捨ててもいいと思う。無関心さが兄たちの癇に障るのだろうか?  ドナートは心が柔らかくて優しいから、傷つく。私のために傷つくのはダメだ。  だから、彼らの事は気にしなくていいんだ。  私とドナートは勇者や魔導士のようになるために、修行や勉学以外に割く時間など、ないのだから。  私たちが8歳になる頃には、勇者と大魔導士は冒険者になってパーティーを組み、あちこちで活躍していた。  勇者を引退しても、民のために魔物を狩る仕事をするなんて、なんて民思いの人たちだろう。    アルデリアの貴族社会では決まって行われる行事がある。新年を祝う行事、市民と認められる5歳の鑑定式、成人を祝う夜会、毎年行われる収穫祭にともなう狩りや園遊会。  そのうちの園遊会は、子供でも主だった貴族が参加するもので、大人は狩りへ、狩りに参加しない大人と子供たちは園遊会へと全員参加しなければならなかった。  その年の狩りは勇者と大魔導士が参加していて、かなり盛り上がっていると聞いた。 「僕も、狩りに参加できる年になっていればよかった……あと5年かあ……」  園遊会で出されるジュースを飲みながら、庭園の木陰で私とドナートはため息をついていた。 「多分、18くらいでもまだ参加はできないと思うな。」  ドナートはこくりとジュースを飲んでから顔を上げた。  あちこちに敷布を広げて話に興じている貴族たちがいた。  ここは王族の直轄地で、狩りと園遊会は毎年この別荘地で行われる。  王族の荘園と、精霊湖、狩りのできる豊穣の森。  国費で暮らしている王族ではあるが、私的な財産もあった。それがここだ。  王都に隣接する丘陵地帯。なだらかな丘と森林が、恵みをもたらし、森ではたくさんの動物が暮らしている。  魔物はあまり出ず、出たとしても定期的に騎士団が狩っていた。  特にこういった狩りが催されるときは獲物以外の危険な魔物は先に討伐されている。  15歳の成人を迎えれば、狩りにも参加できる。しかし、狩りという名の社交という場であるそれには成人したからと言っておいそれと参加できるものではなかった。  16歳と15歳の兄たちも、参加したがっていたが宥められて園遊会に参加している。  不機嫌な様子は見て取れたので、避けていたが、ドナートの視線の先に彼らがいた。  私たちに気付いて近づいてくる。  避けようとしたが、叶わなかった。 「クエンティン。暇そうにしているな。私たちに付き合え。ボート遊びをしよう……」  ジェスロンとモーデスは、側近候補の取り巻き達を引き連れて目の前に陣取った。  私たちは諦めるしかなかった。 「はい、兄上。」

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