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貴族学院~第11話 貴族学院への入学~

 勇者と大魔導士にはいろいろ教えてもらった。  本当に二人は師匠と呼ぶべき人たちで。  彼らを護衛につけてくれた王に、感謝しないでもなかった。 「クエンは竜騎士になりたいとかって言ってたな。」  王都に着く直前の、最後の野営の時だった。 「あの、その、ほ、本人に言うのすごく恥ずかしいんですけど、師匠たちに憧れて。ワイバーンを使役する竜騎士になって国を守れたらって。僕はこれでも王子だし、文官は向いてないだろうし。」  大魔導士が首を傾げて私を見る。 「ふううん? なんで自己評価が低いのかわからねえが、クエンは優秀だぞ? まあ、どうも騎竜部隊は今暗礁に乗っていてなあ。ワイバーンが思いのほかアホなので、御すのに一般の兵士は難しくてな。一人は龍の加護を持ったものが必要なんだが、王族の連中、したくねえんだと。俺が、騎乗具を作っているんだが、材料が足りなくて、数がまだ揃わないんだ。更にその騎乗具に隊を統べる加護持ちの魔力が必要なんだ。」  私は、騎竜部隊がまだ機能しない理由を聞かされているようだが、どうしてなんだろう?  竜騎士になりたいといったからだろうか?  ドナートも隣で首を傾げている。 「で、俺は思ったんだ。せっかく竜騎士になりたいっつー奇特な王族が目の前にいるから、利用すればいいんじゃね? と。龍も賛成してくれたから、学院でたら、竜騎士に絶対なってくれよ? というわけで……」 『呼んだか?』  上空に影が差す。  巨大な影。  見上げると、アルデリアの守護龍が、そこにいた。 「え?」  発した間抜けな声は仕方ないと思う。  白銀に輝く神秘をたたえた鱗。美しい、金色の瞳。頭に響いた、落ち着いた声。大きく広げた、龍の翼。ワイバーンと似て非なる力強い翼膜。長く揺れる尾。  中空に浮いたまま、私たちを見る神秘の龍。  その溢れる神気にあてられて、足が竦んだ。 『ふむ。まあ、合格だな。二人とも。』  合格? 何が? 『何かあれば、私を呼べ。一応加護を与えた身だ。守ってやろう。』  そう言って頭を私たちにやや近づけてにまりと笑った守護龍は静かに浮き上がり、上空を旋回すると去っていった。 「よーし。これで状態異常無効もついたぞ。毒殺の危険はなくなったな。即死無効もあるから突然の暗殺にも安心だな。あれ? おい、お前たち……」 「グレアム、普通、驚くんだよ。なんで事前に説明しておかないかな?」  二人の会話がうっすらと聞こえた気がした。  私とドナートは守護龍の神気にあてられて気絶してしまったのだった。  大魔導士は勇者に怒られたらしい。  そして王都までの間に人々から守護龍を見かけた、アルデリアは安心だと聞かされて、複雑な気分になった。 「あー、その、龍の加護を受けると、即死無効、状態異常無効、経験値倍加、防御力倍加、攻撃力倍加、魔力量限界突破、竜種支配というスキルが付くから……大変便利だなって思って龍に掛け合って、二人に授けてもらいました。」 「グレアム、まだ足りてないよ?」 「あー、うん。王族には、竜種支配ってスキルだけが付く、限定的加護を王の血筋にだけ受け継がれるようにしてあるんだ。守護龍との契約でね。まあ、内容は秘密だから言えないけど、王の子であるクエンにも他の王子にも竜種支配はあるんだ。それを使えばワイバーンは言いなりになる。つまり命令を聞かせることができるんだ。」  守護龍と掛け合うとか。  もしかして私たちは勘違いをさせられていたのか。  守護龍をもたらしたのは勇者だと。  違う、この、大魔導士がもたらしたんだ。  勇者に対して、あの守護龍は視線を送りはしなかった。  大魔導士にだけ、一瞬視線を交わして去っていった。  勇者がもたらしたなら、勇者に頼んでとか、言うはずなのだ。  そもそも、スキルが便利だから、などと、軽い気持ちで他人に加護を与えるように言える立場の人間は普通ではない。 『君は今死ぬ運命じゃない。それに神龍の加護と神の愛し子が気にかけているものを私の領域で死なせるわけにいかない。』  神の愛し子  ずっとわからなかったけれど、もしかして、大魔導士、なのかもしれない。 「ええと、今対象はいないけど、こう、竜種を支配しようって念じて、スキルを意識する。そして例えば。」 『我に従え』  頭に響いた力ある言葉。  私はそれを理解した。使い方も。 「こんな感じだ。ワイバーンとか、竜種にはかなり効く。当然、効かない個体もいるから絶対じゃない。自分のレベルより上には通じないと思っておけばいい。だから、レベルを上げるようにしろよ。学院じゃあまり魔物退治とかしないようだが、休日にダンジョンや冒険者ギルドで依頼を受けろよ。」  師匠の言葉に俺達は神妙に頷いた。 「ま、頑張りな。王都で送り届けたらそう頻繁には会えなくなるからな。何か用事があったら、冒険者ギルドに伝言を頼むといい。それから、クエン。精霊に関しては、エルフがよく知っている。王都の冒険者ギルドの統括はエルフだからいざというときは尋ねるといい。俺に紹介されたって言ってな。」  大魔導士と勇者に頭をくしゃくしゃに撫でられて、激励された。  英雄との別れがもうすぐ近づいている。  2か月もの間、子供に付き合ってくれた。  私たちを鍛えるのは、多分無償でしてくれたのだ。  感謝しかない。  ハディーは美容液の定期注文をしっかりと約束して、報酬はギルドに預けてあると完了報告を書いて別れた。  英雄との道行きを経験した者たちは口々に幸運だったとか、素敵だったとか、言っていた。  それから勇者たちとはしばらく騎士団の訓練でも会うことがなかった。  なんでも騎乗具の素材を自ら取りに行ってるのだとか。  竜騎士団は、竜を恐れずにいられる騎士候補を鍛えるところから始めていて、本格的に始動するのは私が成人する頃を予定していると噂を聞いた。  ワイバーンは卵から育てると人に懐きやすいのがわかってきたらしく、その個体は世話がしやすいらしい。初期からいる個体は、繁殖用にしていて、年を取ったら、素材が市場に回ってくるのだとか。  そうして鍛錬と勉強をしながら迎えた貴族学院への入学日。  毎年、社交界の行われる夏が終わる9月1日に行われる。  学院は全寮制で、場所は園遊会のある土地に近い森を背に作られている。  王都の中心部には馬車で3時間ぐらいのところだ。  もうすでに荷物は運び込んでいて、私の部屋は代々、王族が使っていた部屋らしい。大きな寝室に、側仕えの部屋、リビングと書斎があった。  これが、位が低くなっていくと広さも部屋数も減るのだとか。  ドナートは本来公爵位の使う部屋に入ることができたのだが、側仕えの部屋に入ると言って聞かなかったので、そうしてもらった。  上の兄たちはすでに卒業し、王族は私一人だ。  そのため、入学式の答辞を読まなければならなかった。  憂鬱だ。  だがこれも王族の義務。公務だ。  学院の制服に袖を通して身なりを整える。髪はもう、背の中ほどまで伸びた。  後ろに一つで束ねたリボンの色は緑。  それを見てドナートは眉を顰めたけれど、何も言わなかった。  お互いにお互いが大切だと思っている。  それはお互いに判っている。  何も言わなくとも、視線や、手のぬくもりや、気遣う仕草で。  これから始まる社交の場で、私はこの手を離さずに渡りきることができるだろうか。 「じゃあ、会場に向かおうか。」 「ああ、クエン。」  そして、学院生活が始まる。

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