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竜騎士団の始まり~第17話 結婚式~

 シャワーを浴びて、泡を流して湯船に体を沈めた。 「ドナートは、もう……何を教わっているんだ。」 「凄い師匠だ。俺は尊敬している。」 「ばか。」  思わずわき腹を小突くと、ドナートは大げさに痛がった。  くすくす笑って、抱きしめてくる。 「師匠たち、結婚するんだってな。」  ドナートが耳元で囁く。 「うん。メイル同士だって。」 「うん。知ってる。」  ぎゅっとドナートの腕に力が入った。  私たちはまだ時間がある。戯れに夢中になる時間はまだ、残されている。 「言ってくれてたら、お祝いくらい用意したのにな。」  諦めてドナートに寄りかかった。お湯であったまったのか、頬が熱い。 「そうだな。いつあげるんだろう?」 「少なくても、俺達がここにいる間だろう。」  お湯の中は心地よくて、寝てしまいそうになる。  ごくりとつばを飲み込む音が聞こえて、急に私を抱きながらドナートが立ち上がる。 「あまり長く入っていると体によくないっていってたな。上がろう。」  引っ張られるようにして、私は湯船を出た。  お風呂は気持ちよかった。浄化よりすっきりするし、何よりも体の疲れが取れたような気がする。  客室には飲み物が用意してあって、イチゴの果汁を混ぜた、甘いミルクが置いてあった。 「美味しい。果物と合わせるのも美味しいんだな。」 「冷えてる。これ、魔法を使ってるのか?」  ドナートは飲み物より、この飲み物が冷えてることに興味をそそられてるようだった。  ゆったりと過ごす午後も悪くない。  こんな時間が持てるのは今のうちだろう。  騎士団に入団したらきっと鍛錬や任務で追われて、二人で過ごすことなんかなくなる。  私は少し、ドナートに甘えることにした。 「ドナート、ちょっと動かないでいて……」  横に座っているドナートに寄りかかると、目を閉じた。  ドナートの爽やかな若葉のような香りがして、それをすっと吸い込むと私は眠りに落ちていった。  夕食は何と、大魔導士手ずから作ったものだった。いつも食事は大魔導士が用意してるんだとか。  それが、物凄く美味しくてびっくりした。  出されたパンも柔らかくて美味しくて、食べたことのないものだった。  ドナートがキラキラした目で大魔導士を見ていた。  絶対あとで教わるんだろう。だとすれば、また私はこの味を食べられる、のかもしれない。  結婚式は明日だとか。  服はどうしようかと相談したら、制服で構わないと言われた。  なんでも勇者の世界では学生の制服は正装だそうだ。  明日は、朝食後に教会に出発するとのことだった。  勇者はすべてと引き換えに大魔導士を選んだんだ。  私は、それができるだろうか。  いや、もうすでにドナートは私のためにすべてを差し出しているではないか。 「……ん……」  カーテンの隙間から入ってくる月明かりに浮かび上がる、ドナートの顔をじっと眺めて考える。  あの時、私の側にいることの許しを、願ったドナートの決意に、私は応えられているのかと。  翌朝、制服を着た私たちは、広間へと向かった。  そこにいたのは、正装に身を包んだ、勇者と大魔導士。勇者は白で、上着の中に着ているベストは水色。ボタンは紺だった。大魔導士は黒で、シャツとタイだけが白だった。  物凄くかっこいい。  お互いの色にしたのだろう。勇者が白なのは大抵のフィメルの婚姻衣装が白なのが、所以だろうか。 「じゃあ、飛ぼうか。手を握って、離すなよ?」  飛ぶ?  私は勇者と、ドナートは大魔導士と手を繋ぎ、私とドナートが手を繋いで円になった。  足元に魔法陣が浮かび光に包まれて次に目にしたのは森だった。 「え?」  ここは、どこ? 「転移魔法で、ちょっとな。」  にやっと大魔導士が笑った。 「転移魔法? あのダンジョンでしかないっていう……」  ドナートが顎が外れそうな顔で呟く。 「教会はこっちだ。」  森の中を大魔導士が先導する。勇者をエスコートしながら。 「ごめんね。ほんと、グレアムは説明しないから……」 「百聞は一見に如かずっていうだろう?」  大魔導士と、勇者は仲がいい。  でも、勇者のほうが常識人だと、私は思う。  森の木が開けたところに出た。  白い壁の荘厳な教会。エンブレムは創生神を表す円。  司教が説教台に立っている。  私たちは信者が座る席に通路を挟んで座る。  中規模な教会でそれなりに席数があった。  教会の入口から勇者と大魔導士は、二人で並んで歩く。  司教は二人の出会いと道幸を祝う言葉を述べた。 「二人はともに歩むことを誓いますか?」 「誓います。」 「誓います。」  二人が頭を下げると、司教が聖水を軽く振りかけた。 「貴方方の将来に幸あらんことを。」  私たちは拍手をした。二人は幸せそうで、目の前が滲んだ。  いつの間にか勇者の手には白い花と青い薔薇、赤の薔薇を美しくまとめた花束があった。  そのまま二人は出口に向かって歩く。  私たちも、あとを追った。  勇者は高く花束を投げ上げて、私の方によこした。  受け止めて勇者を見る。 「俺の国ではね、結婚式に花束を参列者に投げ渡す儀式があって、受け取った人は次に結婚するっていうジンクスがあるんだ。」 「まあ、幸せのおすそ分けだな。」  大魔導士がにやりと笑っていった。 「さて、終わったことだし、戻るぞ。」  そして、もらった花束は長持ちの魔法をかけて飾ってある。  その日の夜は祝宴だった。  元勇者パーティーのメンバーや大魔導士のご両親も見えて、大騒ぎだった。  私たちは、英雄にあえて舞い上がった。  その一人、エルフのミハーラに話があると言われて、部屋を出て庭園のベンチに向かった。 「精霊と契約しているとか、聞いたんだけれど、精霊魔法とかは、わかるかい?」 「エルフ族の使う固有魔法だと、聞いています。」 「エルフだけが使うわけじゃないんだ。精霊と交流できるものなら、誰でも使える。君は今、契約している精霊に魔力を取られて自由になる魔力はほとんどないね?」  私はこくりと頷く。 (アクア) 『呼んだか、主。』 (エルフのミハーラさん。挨拶をしてもらっていい?)  アクアが顕現した。 「……これは、精霊王。お目にかかれて光栄です。」 『うむ。あまり時間はないがな。魔法か。それはこの者が成長しきった後にと思っている。』 「そうでしたか。その時は、私が指導をしても、よろしいでしょうか?」 『そうだな。それがよかろう。神の愛し子と縁あるお主だ。主を悪いようにはせんだろう。では、な。』  アクアの姿が消える。 「なるほど。そういうわけか。私はエルフの里に戻っていたんだが、アルデリアの王都の冒険者ギルドに勤めることになったんだ。何かあれば、ギルドに顔を出してくれればいい。」 「ありがとうございます。」 「精霊王と契約する者はいなかったわけじゃないが、稀有だ。気を付けるように。あまり、このことは言わないほうがいい。」 「私もそう思って、師匠たちとドナートにしか言ってません。」 「うん。それがいい。王族の殿下に手を出すものはそうそういないと思うが、用心に越したことはない。」  その後は美味しい料理をお腹いっぱい食べて、早い時間にお暇した。  大人の時間だろうから。  翌日、大人たちが唸っていたのは言うまでもない。  勇者と大魔導士はケロッとしてたけれど。

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