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竜騎士団の始まり~第16話 勇者の屋敷※~

 顔を出している大魔導士に私は頭を抱えた。  一般的な貴族付きの御者姿で、やや幅広の帽子をかぶり短いマント、シャツにブーツ。後ろで一括りにした髪。  あのローブ姿より、正体はばれないとは思うが、容貌が目立ちすぎる。 「待たせましたか。お久しぶりです。」 「いや、そんなには待ってないな。乗ってくれ。」  いい笑顔で言う大魔導士にあいまいな笑顔を浮かべて、頷く。ドナートが開けてくれた扉に礼を言って、馬車に乗った。中には勇者がいた。 「私は、御者の隣に乗ります。」  ドナートがそう言って荷物を中に置くと、扉を閉めて御者台に登っていってしまった。  しばらくすると馬車が動き出す。 「師匠、お久しぶりです。お招きありがとうございました。」 「久しぶり。元気そうでよかった。俺達が護衛も兼ねるから、他の護衛はいらないって王様にも許可を取ったから心配しないで。」 「ありがとうございます。それよりいいんですか?その、顔を出して。」  ちらっと御者台の方に視線を向けてまた勇者に戻す。 「そのほうが目立たないからって。御者のコスプレするんだって張り切ってあの格好してたよ。」  くすくすと笑う勇者が楽しそうで、目立たないという言葉の意味を考えたがやめた。聞きなれない言葉に首を傾げるが、大体意味は分かったので笑みを返した。 「屋敷に呼んだのはね。ワイバーンの騎乗具が大体完成したからなんだ。クエンにはそれの実験台になってもらおうって、グレアムが言いだして。俺としては、せっかくの機会だから今の実力の確認と、その、報告とお願いがあってね。」 「ワイバーンの?それはぜひ! ……お願いですか?」 「俺とグレアムと、その、結婚式を教会で二人だけであげるので、見届け人をしてほしいんだ。」 「え。私達でいいんですか?」 「敬語になってるよ。」 「ええ、と僕達でいいの?」 「君たちだから、見届けて欲しい。」 「そのう、お二人はメイル、同士、ですよね……」 「うん。それも君たちに頼もうって思った一つの理由だね。まあ、俺は厳密に言うとメイルではないんだ。異世界人だからね。俺達の世界ではメイルに当たる性は子供を産めない。その性同士の組み合わせは異端視されていてね。でもまあ、少数でもいたし、俺のいたころには結婚も一部の国でできるようにはなっていたんだ。子供は望めないけどね。フィメルに当たる性を持つ女、という性は、産むことに特化した性で、産ませることはないんだ。こっちに来た時はびっくりしてね。女の人がいないけど、どうしてだろうって、思ってた。」  勇者の告白は王の犯した罪を糾弾しているようで、胸が痛んだ。 「その辺は段々と分かったんだけど、ほとんど変わらないのになんで性への差別がこの世界にあるのかって不思議に思ったなあ。どこの世界も本人にはどうしようもないもので上下をつけるんだなって思った。貴族社会もそうだね。奴隷制度なんかも。」  生まれた時に決まるどうしようもない、格差のことか。  それでも。  私はフィメルでよかった。  フィメルでありたかった。  でも、私はメイルだ。 「ただ、この世界に来てよかったなと思ったのは、この世界の人たちが必死に生きてるって事を感じられたことかな。共に生きる人も見つかったし、勇者の使命も俺に合ってた。救えない命ももちろんあるけど、この手の届くところは何とかしたいって思ってる。だから冒険者を続けている。ただ、俺達は戦争には手を貸さないけれど、クエンはいつかは戦争に行くんだろう? 国民を守るために。」  私はこくりと頷いた。 「魔物を殺すのと、人を殺すのは全く違うよ。信念をもってあたりなさい。なぜ、今自分はこの人を殺さなければいけないのか。殺さない方法はないか、常に模索してほしい。」  私は薄情なのだと、知っていっているのだろうか。  私はドナートを失うなら、国を逃げ出すかもしれないとそう思っている。  国民に対する責任を果たさないといけないけれど、でも。 「それとね、俺は本当は元の世界に帰る道があったんだよ。」  え? 「グレアムがずっと研究してくれて。でも、もういいって、俺から言ったんだよ。俺は、この世界にいたいって。故郷より、家族より、友人より、この世界で、グレアムと一緒に生きたいって思ったんだ。」  勇者の目が愛しそうに眇められ、御者台の大魔導士に向かう。  覗き窓越しに見える大魔導士とドナートは何か楽しそうに話している。ドナートの顔が赤いから揶揄われているのかもしれない。 「だから、何も諦めないで。きっと諦めなければ、掴めるよ。欲しいものを。」  勇者は私の願いを見透かしたように言ってくれた。  心の奥にしまった思いを消すなとそう、言ってくれたのだった。  それから、学院生活のいろいろなことを話して、友人がいないのがばれてしまった。  勇者は、まあ、仕方ないね。グレアムも似たようなものだよ、と言っていた。  割と気さくに話してくれる大魔導士に友人がいないというのは想像ができなかった。  王都までの3時間、人生相談を交えながら勇者と過ごした。王都に入り、道を行き交う人が増えていく。  勇者の屋敷は貴族街の外れに建っていた。広い庭園と、貴族のタウンハウスにしては大きい方だった。どうやら王は奮発したらしい。  門を抜け、玄関の前に馬車が停まると家令や侍従と見られる使用人が揃って出迎え、客室に案内された。昼はその客室に軽食が用意されていて、夕飯まで自由に過ごしていいということだった。  その客室には浴室があった。  温泉というものの噂はきいているし、浄化の魔法も魔力が少ないものでは充分に使えないため、身体の汚れを落とすのに沐浴や水で濡らしたタオルで拭いたりすることがある。  でも、広い浴槽にいっぱいのお湯に、お湯が出るシャワー、いい匂いのする洗髪剤に、身体を洗う石鹸などは聞いたことがなかった。  それもかなり広く作られていた。  大魔導士が風呂がないなんてありえない、と言って改装したらしい。  お湯の出る仕組みは大魔導士謹製の魔道具だそうだ。 「大魔導士って、凄い。」  また尊敬の瞳になって、浴室を舐めるようにドナートは見ていた。  風呂の入り方はレクチャーされたのでわかった。  まず、シャワーで体を流して洗髪剤で髪を洗う。次に体を石鹸で洗って、湯船につかる。  数を百数えるくらい。 「だったかな?」  頭の中で入り方を反芻しているうちにドナートがもう、裸になっていた。 「ド、ドナート?」 「ほら脱いで、一緒に入ろう。」  たちまちに脱がされて、ドナートに髪を洗われた。  花の香りがして、髪が艶々で、サラサラになった。私もドナートの髪を洗った。ドナートは短くそろえているので早く終わった。  スポンジ、というものに石鹸を付けて泡立てて、身体をなぞる。 「これで体を洗うってことになるのか。」 「そうみたいだな。」  自分で洗えると言ったのにドナートはやると言って聞かなかった。だから、私はドナートに洗われている。  スポンジが胸の尖りと股間のものだけ避けていった。  泡だらけの手で、スポンジではなく尖りと象徴をなぞった。 「え、ド、ドナート……これは、なんか、違うんじゃないか?」  にやっと笑って私を見て頷く。 「師匠の指南書には浴室でのあれこれも書かれていて、その一つだ。」 (グレアム師匠―――――!) 「ひ、昼間だぞ。それにここ、師匠たちの家だし……」 「広いし、防音結界張ってるから大丈夫。」 「そういう問題じゃなくて……あん……」 「石鹸はあまりデリケートな場所にはよくないっていってたからさっとで済ませるからな。」  茂みや幹などは丁寧になぞったが、先端や、後孔はそっと触れるだけにとどめていた。  それでも、ドナートに触れられているというだけで昂ってしまう。  そこで、ドナートは手を離して、ざっと自分をスポンジで洗って、私を泡だらけのまま抱きしめて背中を壁に押し付けた。  腰を合わせて、昂ぶり同士が擦れ合う。  私はドナートの背中に縋りついた。 「ん、気持ち、イイ……」  胸の尖りも刺激で尖っていてドナートの肌に擦れて気持ちいい。 「クエン……」 「……ぅんッ……」  熱い息を漏らす唇を塞がれて、きつく吸い上げられる。お互いに貪るように何度も角度を変えてキスをした。壁とドナートに挟まれた私の昂りはすぐに限界まで張りつめてしまう。  上下に動かされて、敏感な裏を擦られるともう、たまらなくなって腰が震えた。 「……はッ…ど、どなぁ、と……も、イく……」  限界を訴えるとドナートはお互いの幹を一緒に握って、扱いた。 「……あっ……ああっ……」  私はすぐに達して、精を吐き出した。泡と白いそれが混じり合って、滴り落ちていった。

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