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戦争~第21話 始動~
精霊魔法の件について、しばらく進展はなかったが、この二カ月の猶予期間に教えてもらうことにした。場所は本体のある、あの湖。
園遊会などがなければ、王族以外入ってこれない場所だ。
アクアの気配が動いて、覚醒する。この頃は呼ぶまで寝ているようだった。そのおかげなのか、身長も伸びた。ドナートには敵わないが。
『主、呼んだか。』
(うん。精霊魔法について教わろうと思って。)
『私が教えるのではだめか?』
(一応、エルフ族の教えを乞うことになっているから。)
『ああ、前会ったあの者か。』
(そうだよ。エルフ族は基本、自国から動かないから、この国にいてくれるエルフ族じゃないと会うのも難しいし。)
「クエン。来たぞ。」
長い髪のエルフ二人が歩いてくる。湖のほとりにいる私たちは二人に歩み寄っていく。
「初めてお目にかかります。冒険者ギルド統括ギルド長のアリリエリと申します。クエンティン殿下。」
そう言って膝をつき、首を垂れる。
「ああ、堅苦しい挨拶は抜きにしてもらいたい。アリリエリ統括ギルド長。教えを乞うのは私の方なのだから。」
立ち上がるよう促した。護衛も、ドナートだけだ。もちろん、ここに来るまでは護衛騎士が何人かついてきたが、奥には来ないでほしいと、少し離れたところで待機している。
「わかりました。それでは早速。」
何かをエルフ語で呟くとアリリエリの隣に緑色をした精霊が現れる。
「私と契約している森の精霊です。シルワと言います。」
ゆらゆらと揺れるその姿。
「精霊魔法は精霊に魔法行使をしてもらい、現象を起こす魔法です。その際、威力、精度は精霊任せになりますが、格上の精霊と契約しているものはほぼイメージ通りの魔法を使えます。対価は己の魔力です。ただ、対価の魔力の量は契約する精霊の必要とする量ですので、行使する魔法に必要な量ではありません。そこが普通の魔法と違うところです。」
そう言ってアリリエリは緑の魔法を行使してくれた。ツタが伸びて相手を拘束する魔法。
「精霊によっては少ない魔力で大きな魔法を使うことも可能ですが、大魔法を操る精霊と契約するには契約者の方もかなりの器が必要であることは言うまでもありません。ただ、そういった力関係によらず契約する精霊は多いのですが人型を取れるほどの精霊と契約すると、魔力をほとんど持っていかれてしまうケースが少なくありません。」
そう言ってアリリエリは私の方を見る。
「殿下の場合はそのケースですね。ミハーラから聞いています。順調に魔力を伸ばしていらっしゃるようです。もう5年もすれば、ある程度自由に精霊魔法を行使することは可能でしょう。殿下が普通に魔法を使うより大きい魔法を使えます。ただ、それまでは魔力を増やすようにすること、基礎的な魔法を行使してもらうこと、魔力枯渇に陥る可能性があるので、必ず誰か側にいてもらうよう注意してください。では実際にやってみましょう。」
それから実際の指導に入ってもらい、鍛錬に組み込むように指導を受けた。
二カ月の間精霊魔法の習得に費やし、いよいよ騎士団へ着任する。
建設途中だった砦も完成したと聞いた。あの時一瞬で着いた竜騎士団だったが、足で行くと、馬車で3日から5日かかるそうだ。本当に、大魔導士は規格外だ。
護衛に守られて馬車で移動し、山頂への道は馬車が通れるように整備されていた。
山道を登り、砦に着く。馬車が止まって扉が開かれる。
ドナートにエスコートされて、降り立つ。
整列している、竜騎士たち。
「出迎え、ご苦労。」
私は、居並ぶ騎士たちを見廻し、与えられている、以前使った団長の部屋へ案内された。
「騎士が増えたな。」
荷物をアイテムボックスから出して、クローゼットやチェストにしまった。
「そうですね。悪感情を感じました。締めましょうか?」
「物騒なことを言うな。王族の権威でなったんだろうって思われているんだろう。」
私は苦笑してソファーに座った。簡易キッチンに食器やカトラリー、茶葉などしまいながらドナートが物騒なことを言ってきた。
「新しい騎士が多かったからじゃないか? 明日からの訓練をきつくすればいいだろう。」
シャツのボタンを緩めて、息を吐き出す。
「実は師匠に言ってお風呂つけてもらったんですよ。寝室と書斎の間に。」
「え。」
そういってドナートが、前に来た時になかった扉を開けた。
小さかったが、立派なお風呂があった。
「シャンプーとか、いろいろ譲ってもらいました。これからずっとここで生活するんですから快適に過ごしたいですよね。」
「あ、ああ。」
ドナートは本当にどこに向かっているんだろうか。
「今日はゆっくり休みましょう。」
そう言うドナートにお風呂に入らされて、色々されて逆にぐったりしてしまったが、それはゆっくりしたと言えるのだろうか?
翌日、本格的に始動する竜騎士団の決意式をした。
「団長に就任した、クエンティンだ。竜騎士団の初代団長に就任した。これから本格的に実戦的な活動を始めようと思う。まずはワイバーンを己の手足のように操れるようになること、その次は戦術的な動きを習得するそれができるようになれば任務を遂行できるようにしようと思う。何か質問は。」
手を挙げた騎士は初めて見る顔だった。
「団長は乗れるんですか? ワイバーンが難しい魔物だって分かっているんですかねえ。」
「何いってるんだ、おい」
「あいつ知らないのか?」
「あんな子供に乗れるわけないだろうが」
「わかった。では貴殿達に見本を見せよう。ドナート、来い。」
私は竜舎に向かい、懐かしさに口元が緩んだ。
『プルシュ、来い。』
念話を飛ばすと、嬉しそうに寄ってきた。ちゃんと私を覚えていてくれたのだ。
『元気そうだな。これからはずっと一緒にいられるぞ。』
ギャアアア
『乗せてくれるか』
騎乗具をつけたプルシュは頭を下げた。
ひらりと乗り込む。ベルトを閉めて、ドナートを見た。
ルドにもう乗っていた。
『行こう。』
ふわりと風に乗る。崖から飛び立って旋回する。
ああ、久しぶりの空。ドナートと連れ立って飛ぶ。ドナートは私の動きをトレースしてついてくる。
たっぷりと飛行を楽しんで、広場に戻った。
『いい子だったな。』
顎の下を撫でて褒めるとキュウキュウと嬉しそうに鳴いた。
「さて、私の飛行は貴殿達に劣っていたか。異存があるものは後で個別に聞いてやる。まずはこれからの訓練予定だが……」
それから反抗的な者は鳴りを潜め、竜騎士団は始動したのだった。
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