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戦争~第25話 論功行賞~

 開戦の合図に竜騎士団は空に舞い上がる。  私を先頭に槍のように隊列を組んで、一気に味方も敵も飛び越えた。 「竜騎士団だ!」 「解散したんじゃないのか?」 「復帰したんだ、蒼銀が乗っているぞ!」 「あの白いの、ワイバーンなのか?」  矢や、魔法が飛び交い、歩兵が敵に向かっていく。  それを眼下に見ながら一気に敵陣に突っ込む。  隊員たちは弓や魔法、それぞれの投擲武器を駆使し、遠距離攻撃ができるものを射程外から潰していく。さらに風魔法をドナートが撃ちだし、広範囲の敵兵が倒れ込んだ。  帝国は魔術師があまり育たない。魔力が多いものが生まれてこないのだ。  希少な魔術師は後方にいて、司令官や将官を守っている。  今の風魔法も、しっかりと防いだようだった。  そして、その魔術師たちが、魔法を私にめがけて撃ってきた。 『だが私に魔法は効かぬ。』  龍の纏う風の壁に阻まれて攻撃魔法は私と龍に傷一つもつけることは出来なかった。  龍は下降すると、敵の総大将の防具を爪に引っ掛けて釣り上げた。  ドナートは影縛りの魔法を使い、副官らしき将を捕らえた。 (アクア) 『呼んだか、主』 (水で洗い流して、遠くまで) 『容易い事だ。』  アクアは顕現せずに魔法のみを行使してくれた。  津波のように大量の水が押し寄せ、帝国兵だけを帝国側へ押し流していく。  陣も、兵站も何もかも。  誰かが息を飲む音が聞こえたように思う。 「よし、本陣へ戻るぞ。」  手でサインを出し、本陣へと戻る。  王の前に捕虜を投げ出し、待機していた場所に降り、下竜して王の前に行く。  すでに二人の帝国司令官は縄を打たれて近衛に抑えられていた。 「よくやった。」  そう、王と、こっそりと大魔導士から言われた。  味方の死傷者は1%に満たず、相手の死者も少なかった。魔法で流された者の中にはかなりの怪我を負ったものもいたようだが仕方ない。  帝国側は敗北を認め、国の境界を決戦の行われた平原の真ん中にし、司令官の引き取りの際、多額の賠償金を払った。  常勝帝国の完全なる敗北に、周辺諸国は震撼した。  そして、アルデリアの竜騎士団の存在も知れ渡ったのだった。  ほとんどの戦後処理が終わり、主だった将校や貴族が、王宮の謁見の広間に集まった。  この日は論功行賞が行われる。  騎士の正装に身を包み、ドナートと二人、軍の末席に、跪いている。  大魔道士だけが、まっすぐ立って王を待っている。  一位は言わずと知れた大魔道士だ。  私が脱落した後、戦線を押し上げた功績。 「私は、冒険者ギルドの依頼を受けたまで。依頼の成功報酬で充分です。ああ、今後無理な依頼は勘弁していただけると助かります。」  王はこれに対して報酬の上乗せとギルドランクの新規創設を持って応えた。  SSSランクの創設だ。  これは勇者と大魔道士のみ。  今後、二人の功績に匹敵する功績が認められたなら与えられる名誉的なランクだ。  2位は私だった。  王が望みがあれば言えといった。ではここぞとばかりに押し通してしまおう。 「では、恐れながら。まず、ドナートを私の伴侶に。そして、王族直轄地の湖と周辺を私の領地に。湖のほとりに私の屋敷を。そして5年の休暇をください。」  静まった大広間。  そしてしばらくして大魔導士が大笑いをした。 「いいんじゃねえの。ささやかな望みじゃねえか。な、王様。」  そう大魔導士が王に声をかけるとビクリ、と王の身体が震えたように思う。 「英雄と言えど、不敬な。」 「第5王子殿下と言えども願いを3つも。」 「はて、二人ともメイルと聞いておるが……」 「あいわかった。そのように取り計らおう。」  礼をして下がると、3位はドナートで。 「私の望みはクエンティン殿下と伴侶になること。それ以外は望みません。あ、いえ。側仕えと護衛騎士は変わらず頑張ります。」 「う、うむ。」  王の戸惑った顔は見物だったが、空気がなんとなくおかしな感じになったのは仕方ない。 「うちの子はほんとにブレないな。」  リュシオーン公爵の嘆きが聞こえたように思う。  それから通常の褒章をして、下位の褒章に関しては各部隊、貴族軍士官に任せることとなり、目録だけの受け渡しになった。  私も部下の褒章の目録をもらい、広間を出る。 「クエンティン。少し話があるのだけど、いいかい?」  すぐ上の兄、ウェザルだった。  休憩に使われる小部屋に寄り、出入り口にはお互いの護衛騎士が立った。  お茶の用意はドナートがした。 「すっごく美味しい。うちの側仕えは紅茶の淹れ方が微妙なんだよね。」  ドナートが防音結界を張った。 「それで、どのような用件でしょうか。」 「兄弟じゃないか。普通に話してくれよ。」  私とドナートは顔を見合わせて頷いた。 「わかった兄上。」  正直、すぐ上の兄とは交流がほとんどなかった。ウェザル兄は側配の実家に年の半分は行っていた、というのもあるだろう。南の防衛の拠点で、武を誇る家で、政略的な意味合いの深い婚姻であったはずだ。 「私をね、竜騎士団に一時配属させてもらえないかと思ってね。」 「え。でも、竜騎士団への協力は全員断られたと聞いたけど……」 「ああ、そのことなんだけど、私は断ってはいないんだよ。実はね、クエンティンが湖に落ちた件は非常にまずい事件だったんだ。君たちはほとんど社交界に出できていないからわからないと思うけど、表立って、気に入らない人間を直接的に消そうとした、と思われている。王になるべき人間が、そういう気質であるならば、暴君の予感がするじゃないか。だから、派閥の力関係がかなり私と、メッシーナに傾いた。特にメッシーナは王配の子だ。上の兄のやらかしで王太子はメッシーナになるのかと大変な騒ぎになった。」  そう言って、紅茶を手に取った。口を湿らせてから、話を続ける。 「メッシーナに何か起こったら、次は私だ。だから、リスクの高い、竜騎士団に携わるのはまずい、ということで、上の方で協力を断ったんだ。それに君が竜騎士になりたいって願いを言っていただろう? だから、竜騎士団は君に任せることに決まったんだ。大魔導士グレアムも、君を気に入ってたみたいだし。あの人は怖い人だよ。私は魔力の圧が凄すぎて、彼には近寄れない。」  ブルっとおどけて震える真似をする。 「そして戦争が始まって、竜騎士団は凄い活躍じゃないか。手のひらを返したように、持ち上げる。そして今回の活躍。王族が率先して、敵軍を撃破したんだ。あの戦争に参加した農民兵や、王都より遠い、領地の低位の貴族軍にいた者たちから英雄だと、噂になった。蒼銀の竜騎士、英雄クエンティン殿下、と。そうなると、次の王を巡っての、勢力図が変わってくる。君はもう、何でもない5番目の王子、ではなく、次の王に一番近い王子、なんだよ。」  なんだそれは。要らないことを。知らないうちにそんなことになるとは。 「5年、休職するんだろう? その間、竜騎士団に王族がいないとまずいんじゃないか? ワイバーンを御すのに、何か必要なんだろう? だから私が行こうと思う。あの、白いワイバーンにのせてもらえたりするかな?」  政治的な話から、一気に竜の話になった。 「もしかして、動物が好きだったり……」 「ああ。私の専攻は生物でね。魔物から家畜まで。ワイバーンの生態も興味ある題材なんだ。調べさせてもらってもいいだろう?」  意気込んで言う兄に、私は緊張して握っていた手を、少し緩めたのだった。

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