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終章~第27話 子供たち~
発情期から半年後、私は二つの卵を産んだ。殻がほんのり青と赤に染まっていて、二人の魔力を受け継いだのだとわかった。卵には両親から魔力を与えないと孵るのに時間がかかったり、孵らないこともある。
そこで大魔導士から、保育器というのをもらった。竜の卵に魔力を注いでいたのと同じ原理だという。ケースが卵を衝撃や危険から守り、魔石に蓄えた両親の魔力を常に卵に供給する仕組みだという。
もちろん、卵の成長に合わせてケースも大きくなる優れものだった。
私が基本的に保育器を持ち歩き、ドナートには朝晩魔力を補給してもらうことになった。保育器の件と言えば、プルシェの子供の卵は孵って、わんぱくに育っている。かなり最初の頃から私の魔力を注いだせいか鱗が銀色に近い色になっていたのにびっくりした。名前はシルヴァにした。
小さなころはドナートに頼んで竜舎で他の竜と遊ばせて、慣れさせた。大きくなってからは基本的に湖周辺で警備をしてもらっている。アクアの張る結界のおかげで領には悪意のあるものはだれも入ってこられないが、シルヴァがいると魔物が寄ってこないので多分、あの領地はシルヴァの縄張りになったのだろう。
領はシルヴァとアクアに任せ、子育てに専念することにした。孵化が近くなった頃、勇者の屋敷のいつも泊まらせてもらっている客室に繋がる部屋が、ベビールームになっていた。
ベビーベッドや玩具。床が、柔らかな素材になっていて、更に絨毯も敷いてあった。
親が用意したものより、気合が入ったベビールームを見て、若干引いたことは内緒だ。
「おー可愛い。」
「ほんとだね。」
きゃっきゃとご機嫌な声を上げている、青い卵から孵った銀髪のティート。じいっとどこかを見ているあまりはしゃがない、赤い卵から孵った赤い髪のルディン。
「おーフィメルかあ、愛嬌がいいなあ。モテモテになるぞ。」
カラカラと、音が出るおもちゃを、ティートの前で振っている大魔導士の発言に、思わず振り向いた。
「グレアム師匠? まだ、年頃になってませんよ。なぜわかるんですか?」
あ、という顔をした大魔導士はだらだら汗をかいていた。
観念した大魔導士は、鑑定スキルで性別も種族もスキルも能力もわかるんだそうだ。
そんなすごい鑑定能力は聞いたことない。
「あー、ステータスカード作ろうか? フィメルか、メイルかっていうのは早くわかったほうがいいだろう? 自分で隠蔽できる機能もあったほうがいいなーあ、冒険者カードと組み合わせるかなあ……」
ぶつぶつと研究モードに入ってしまった大魔導士を見て、勇者が苦笑しつつ、子供の面倒を見てくれた。大魔導士の鑑定によるとティートはフィメル、ルディンはメイルだそうだ。
孵ったばかりの子らは元気だ。ハイハイでどこでも行くし、何でも口に入れる。
夜も泣くし、二人で喧嘩もする。
これ、一人で育てるのって大変だ。
貴族や王族は世話係がいるけれど、平民とかは仕事の傍ら子育てをする。
凄いな。
でも愛しいから何でもしてあげたくなる。
ドナートが笑み崩れるのを初めてみた。赤ちゃん言葉なんて言うんだと、驚愕した。
色々なことが起きて、大変だけど、楽しくて、幸せで。
生まれてきてくれてありがとう、と思う。
勇者と大魔導士が可愛がりすぎて、滞在の延長を強請られるとか、龍が加護をくれるとか、意外なこともあったけど。
戦争が一応終わってから5年が経った。私が竜騎士団に復帰するのももうすぐだ。
そのまま退団にはならなかった。増えたワイバーンと、竜騎士団への入団希望者が年々増え続けたおかげで、隊を分けることが決まり、更に国境の要所に派遣する構想もあるらしい。
金食い虫のワイバーンだが、魔物を辺境で狩っていけば食糧問題も解決しそうだ。
そんな復帰の準備をしている中、王が倒れたという報が入った。
「クエン、王が倒れた。すぐどうということはないが、しばらく起き上がれないらしい。」
不思議なほどに、ああ、そうなのか、という感情しか、もてなかった。
「そうだな。近いうちに見舞いには、行こう。復帰の挨拶もある。」
そういうと、ドナートに抱きしめられた。
「無理はするな。」
「無理とか、ないぞ。」
ドナートは私がショックを受けているとか、思っているのだろうか。
優しい手は宥めるように背を撫でてくれた。
見舞いに行くと、王はベッドに寝ていた。
見ないうちに老けた気がした。ああ、でも私は王が年老いてからの子供だった。
「クエンティンか。竜騎士団に戻る日が来たか。」
声に張りがなく弱々しい。
「はい。5年の休暇、ありがとうございます。その、近くに行ってもよろしいでしょうか。」
「よい。許す。」
ドナートと頷きあうとベッド脇に立つ。
「報告が遅れました。私とドナートの子供です。」
私がティートを、ドナートがルディンを抱いてきていた。
「おお、そなたらの子か。」
驚きに目を瞠った王は、くしゃりと笑った。王の笑う顔を初めてみた。二人はぐっすりと寝ていて、大人しかった。
「ええ。ティートとルディンです。」
「そなたらによく似ておる。」
「ありがとうございます。」
そろそろ、と主治医に促されて、退室の時間になる。
礼をして、部屋を後にした。
あとからハディーに孫を見せてくれて、ありがとうと言われた。
少なくとも、ハディーにとって王は、私にとってのドナートと一緒で、愛すべき伴侶、なのだろう。私は、長年のしこりが解けていくように思えた。
竜騎士団に復帰すると見ない顔も増えていて、また新鮮な気持ちになった。
「今日から復帰するクエンティンだ。また、この騎士団を預かることになった。よろしく頼む。」
挨拶をすると、歓迎ムードだった。
英雄の肩書は役に立っているようだった。
師匠たちには遠く及ばないけれど。
子供たちは勇者の屋敷に預けて私は竜騎士団へと復帰したのだった。
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