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終章~第28話 暗殺~
王が寝たきりになってずいぶん経つ。
年老いてきたために、一度寝込むと起き上がれるまで時間が必要になる。寝込んでいるため、身体が衰えていく。それは仕方のない事なのだ。
私は竜騎士団にいるため、王宮からは離れている。
王宮の出来事がつぶさに伝わることはない。
それでも、次期王は誰だ、という声が大きくなっていくのは感じていた。
うちの子たちはもう8歳になる。
勇者と大魔導士、更にはアクアも加わって剣に魔法にこれでもかと教育を受けた。竜騎士団にも顔を出し、ワイバーンを恐れずに、世話係と一緒に世話をしたりしている。加護を持っているから、ワイバーンに関してはあまり心配はしていないが、こうも奔放に育っていいものかと思う。
「ハディー、今日はねー」
「……」
ティートはよく今日起きたことを夕飯時に話すが、ルディンはあまり話してくれない。だが、甘えないというのではなく目で語っているようなのだ。そこをティートが代わりに話して横で頷いている。
ルディンは好きな子ができた時に大丈夫なんだろうか。
ただルディンの剣の腕前は相当で、勇者譲りの剣技だ。ティートはアクアの祝福を受けているので(契約はしていない)精霊魔法も使える。どちらかと言うと魔術師の才能がある。ドナートと大魔導士について修行し、時折暴走しつつ才能を伸ばしている。12歳からの学院の勉強も私とドナートが予習として教えている。
私とドナートは竜騎士団の宿舎に住んでいるが、子供たちは一応領地で暮らしていることになっている。だからなのか、時折不審な集団が訪れる。
大抵は情報機関の人間だが、裏社会の人間が来る時もある。
さすがに竜騎士団の立地は特異なところにあるし、結界も張られていて、山のふもとからは認証された人間でないと入れないようになっている。
勇者の屋敷に至ってはそこに私たちがお邪魔していること自体知られていないし、大魔導士が仕掛けている警備用の魔道具に阻まれてしまうだろう。
だから、二人については心配していないのだが、さすがに、この不穏な状況は何とかしたい。
貴族からの面会を求める書簡が多く来て、うんざりしかけていた時だ。
「ちょっと、話ができないかな?」
今は竜騎士団の南砦の団長になっている、ウェザル兄だった。メンディップ辺境伯は一番に竜騎士団の駐留に名乗りを上げ、南の国境を隔てる山の上に砦を作ってしまった。
私が戻るまでの一時的な入団だったウェザル兄だったが、本入団し、南砦竜騎士団長となった。
王の不調の見舞いと、竜騎士団の会議のために一時王都に戻ってきていた。
竜騎士団の年間の報告を上げるために、王宮に訪れていた私たちは、小さな応接室で話をすることにした。
防音結界を張った後、ウェザル兄は口を開いた。
「相変わらず美味しい紅茶だね。」
「ありがとうございます。」
ドナートが頭を下げた。カップを置くとウェザル兄はふうと息を吐き出して、眉間に皺を寄せた。
「王はかなり具合が悪いようだったよ。もしかしたら、もうそろそろ譲位を考えているのかもしれない。書類の公務は熟しているけれど、最近は一日にできる書類の量が減っているようだった。」
手を組んで考える様子に次の言葉を待つ。
「多分近いうちに呼び出されそうだ。東の砦に行っていたモーデス兄上もいま戻ってきているからね。ジェスロン兄上とメッシーナ兄上は王の公務の補助をしているし。……それで、ジェスロン兄上の周りに不穏な動きがあるから、気を付けて。心当たり、あるんでしょ?」
私の領地に訪れた不審な者たち、か。
「……わかりました。一層気を付けようと思います。」
「うん。私も気を付けるよ。ああ、もう、竜種の研究が遅れる。もう、王なんかなるつもりはないのに。いい加減王太子くらい決めておいてくれればよかったのに。」
研究者の地が出ている。
その後、雑談をして私たちはあてがわれた客間に通された。
(アクア)
『なんだ?主』
(領地に不審なものはうろついているか?)
『そうだな。そこそこいる。』
(何組ぐらい?)
『5~6というところか。ほとんどは情報要員のようだが、一部暗殺系の奴がいる。精霊が好まないタイプだ。』
(そうか。)
『それより、主の周辺が危ないぞ。王宮のはずだが、なぜそんなに不穏な輩が隠れている?』
今はアクアがある程度顕現してもそう簡単に枯渇はしないが、訓練にも魔力を使うので基本アクアは魔力を使うのを抑えてくれている。精霊湖を領地にいただいたので、普段は本体に戻っている。
呼び出すと私の近くに来てくれる。その際も姿を現さないよう気を使ってくれている。
契約した身としてはすまないなと思う。
『主。私は不自由は感じてないぞ。』
(アクア……ありがとう。)
「ドナート。客室の周りに不審者がいるらしい。」
入ったときから防音結界は張っていた。
「ああ、俺の索敵にも敵意があるものの存在は感じている。暗殺者、かな。」
ここで尻尾を掴むのがいいだろう。他の拠点にはうちの可愛い子供たちがいる。
(アクア、念のため、子供たちを守りに行ってくれないか)
『了解した。』
アクアの気配が薄れると、僅かな殺気を感じ取る。
来た。
ドナートの影魔法が発動して、侵入者を拘束する。
逃れた者には私が水魔法を食らわせた。水で覆って口の中も水で満たす。
あっけなく気絶して水をすぐさま消す。
このやり方は大魔導士に教えてもらった。息ができないと人間はすぐ死ぬ。息をする生き物はすべて同じで、死ぬ。毒よりも何よりもあっけなく。
そこのさじ加減が難しく、魔物にはかわいそうなことをした。
ドナートの影が、自殺もできないよう、拘束する。
「さて、お前たち。覚悟はいいか。」
騎士は拷問の手段も訓練される。暗殺者は耐えるようにできてはいる。だが、私にはもう一つの手段があった。
ステータスカード。
試しに作ってもらったそれがかなりえげつない仕様になっていた。
隠したいことも何もかも、カードの中に情報が入る。
所属と職業、本名、年齢、性別、種族、スキル、能力、称号。
魔力で威圧し、一人一人、血をカードに垂らした。
そうして出た結果、暗殺ギルド所属ということがわかり、最速で潰しに行った。
失敗するとすぐに彼らは証拠を消し、姿を消す。
そして依頼者が判明した。
ジェスロン兄だった。
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