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第2-2話しばらく留守にしていた家の中
居間から入り込む明かりに照らされ畳に、ふと黒い何かが落ちているのが見える。
虫でも入ってきたかと思い、顔を近づけてみれば、それは歪でゴツゴツした黒い塊だった。
「詠士、これは……?」
「ああ、それはすすだ。昔は部屋の真ん中に囲炉裏があって、俺が中学ぐらいの時まで使っていたんだ。祖父が亡くなって使う人間がいなくなったから、こうして使えないようにしてしまったんだが、未だにパラパラと使ってた頃の残骸が落ちてくる」
「そうだったのか、気づかなかったよ。もしかしてこまめに君が掃除してくれていたのか?」
「気づいたらすぐに掃除してた。昔からの習慣だ。少しでも気を抜くと、あっという間に汚れてしまうんだ。真太郎がいつでも家に来ても良いように、俺も姉貴も気を付けてたから……未だにクセがついている」
詠士は小さく苦笑してからわずかに見上げる。昔を思い出しているのか、どこか遠い目だ。
「似たような古民家は何件かあるが、囲炉裏が現役な所はここだけで、それが子どもながらに誇らしかったな……岩魚を焼いたり、餅を焼いたり……ああ、駄目だ。考えると腹が空いてくる」
「自爆するんじゃない。ほら、台所を掃除して食事できるようにしよう」
私が促すと詠士は「そうだな」と肩をすくめながら笑う。
踵を返して詠士に背を向けようとした最中、ふと詠士の瞳に子どもが宝物を見つけた時のような輝きが見えた気がした。
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