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第8-2話贅沢な時間

 だから私は、この時間を作り出してくれた詠士へ、心からの感謝と気持ちを渡す。  わずかに身を寄せ、首を伸ばし、詠士の頬へ届けた唇に載せて。 「……ありがとう。こんな贅沢な時間を過ごしたのは生まれて初めてだ」  詠士の瞳が丸くなる。それからくしゃりと笑みで相貌を崩す。素の自分をすべてさらけ出すような、純粋であどけなさすら感じさせる顔。 「そこまで喜んでくれるなんて光栄だな。俺も……隣に来てくれてありがとうな。ここで真太郎と一緒に、この温かさを共有できる日が来るなんて……」  私たちがここで一緒にいることは、決して楽なことではない。  詠士は仕事をしながら、身動きが取りにくい私をサポートしていくことになる。  ここに私がいるだけ詠士の負担になるし、私が詠士に返せるものはあまりに限られている。  昼間だけじゃない。夜のことだって、私は詠士を受け入れることで精一杯で、私から何かをすることが難しい。したくないのではなく、身体的に無理なことが多いのだ。  そんな私がいてくれることを、詠士は心から喜んでくれる。  ああ……なんて贅沢な時間なのだろう。  言葉にならなくて、私は綻んだ顔を詠士へ送る。  パチ、パチ、と炭が鳴る音を聞きながら、私たちは二人の時に沈み込む。  より深く。二度と離れることがないよう、どこまでも――。

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