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第1話昔と今
◇ ◇ ◇
私にとっての食事は、あくまで体が活動するための補給に過ぎなかった。
いつ何が起きるか分からない。
特に出動のないのどかな日々が、一秒後に鳴り響くサイレンで呆気なく壊れてしまう状況を、私は幾度となく経験してきた。
食べられる時に食べる。味は二の次。
消防署の食堂では当番制で隊員が料理を作り、速やかに口へ掻き込んでいた。
災害時に炊き出しとして参加できるように訓練しつつ、備蓄の食材を無駄にしないために利用する。そのための自炊。味が良ければそれに越したことはないが、どれだけ不味くても残すような真似はしない。
家でも職場でも料理というものを作る機会は多かった。
味も他の隊員たちに比べれば、おそらく悪くはない部類だったと思う。
それ以上に早い、胃袋がすぐに満たされる、栄養バランスはいい、という実用的な部分を私は重要視していた。
食を楽しむ暇などない。
ましてや私という人間に、そもそも何かを楽しむ資格などない。
息子の主真や隊員たちに食べてもらう時は気に掛けるが、そうでなければ敢えて美味しくしないという手段を私は選んできた。
美味しさは敵。心からそう考え、駆け抜けて十六年ほどだが――。
「よーし、焼けたぞ牛ブロック。今からそぎ落としていくな」
詠士が声を弾ませ、囲炉裏で焼いた肉の塊りをナイフで切り落とし、私へ差し出してくる。
私は今、毎日美味しさに溢れる日々を送っていた。
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