そろそろ食べるのを切り上げよう――あとひとつだけ食べてから。 　少し温度が下がって食べやすくなったオニオンロールに手を伸ばし、しっかりと味わって食べる。 　これが日常だと言える日々に、胸も満たされていく。 　今まで拒み続けてきた自分の幸せと楽しみは、私の感覚と感情を取り戻してくれる。 　気づけば手元のオニオンロールは、私の口内へとすべて消えていた。 　うっ……まだ食べたい。 　だが以前より運動強度が下がった身。しかも加齢でますますエネルギー消費がしにくい体になりつつある。 　食べ過ぎは後から体にくる――と分かっているのに、また手が伸びてしまう。 　以前よりも己の欲を堪えられなくなったことを自覚し、私は額を押さえながらうなだれる。 「……こんな美味しいものばかり作って……恨めしいぞ、詠士……」 「ん？　ああ大丈夫、大丈夫。これからしばらくヘルシーな料理にしてバランス取るから、心配せずに食べ過ぎてくれ」 　これ以上私を誘惑しないでくれ……っ。 　詠士からの免罪符に頭を抱えながら、私は新たなオニオンロールを口にする。 　それを見た主真が「じゃあ俺も遠慮なく」と私に続く。 　終わらない食の幸せが、古しい台所を温かにしながら延々と流れていった。