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第9-1話終わらない食の幸せ
「確かに化学も実験も好きだけど、叔父さんは要領良いしな――」
「料理ができると人の胃袋掴めるからいいぞ。ホームパーティー開いて取引先の胃袋掴めば商談が進みやすいし、何より好きな子の胃袋を掴めば一生のパートナーになれるし」
……詠士、私を見ながら言わないでくれ。そんな念を押さなくても分かってるから。しつこい叔父は嫌われるぞ。
まあ早々に胃袋を掴まれて、そこから人生ごと捕まってしまったのは間違いないが。
一貫して態度がブレない詠士へ、主真がハッとなり大きく頷く。
「そっか! 胃袋が掴めると確かにいいかも。ちょっと頑張ってみようかな……」
渋っていたのが一変、前向きになる。もしかして、と私でもうっすら察しがついた。
詠士も同じく察し、そして遠慮なく口に出す。
「おっ、もう本命がいるのか。だったら料理も頑張れ。今度からこっち来たら教えてやる」
「お願いします、叔父さん」
「料理を学ぶ時は俺を師匠と呼べ、主真!」
「はいっ、詠士師匠!」
笑い合いながらの悪ノリ合戦を、私は苦笑しながら横で眺める。
こんなやり取りも、私が見ていない所で昔からやっていたのだろう。
私は主真とこんなやり取りはできない。となれば、私も詠士を師匠と呼んで教えを乞うべきかもしれない。
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