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第1話武井真太郎という男
武井真太郎――俺が現役時代に、何度か現場で顔を合わせたことがある。
初めて見た時、明らかに他の隊員と顔つきが違った。
救助隊は誰もが命をかけて人を救う。
オレンジの隊服を着て現場に出れば、誰もが鬼気迫った顔になる。
そんな中で彼の顔つきは、どこか思い詰めたような悲愴感と、命を賭して災害という壁を突き破ろうという気概に満ちていた。
例えるならば、よく磨かれた鋭い槍。
現代に武将が混じっている、と思わずにはいられなかった。
現場以外の場所でも見かけたことはあるが、さすがに現場ほどではないにしても、彼は普段から重く必死な空気をまとっていた。
近県にいる救助隊員の中で、一番多くの人命を救ってきた武井。
結果を出し続ける彼に皆は頼もしさを覚えていたが、俺はいつ折れてもおかしくない危うさを感じていた。
より鋭利に尖った槍が、ポキリと折れる――救助中に不慮の事故に遭い、重体になったと聞いた瞬間に、ああこの日が来てしまった、と思ってしまった。
年齢的にも現場へ復帰はできないだろう。
そして、救助そのものと関わることがなくなるだろう。そんな予感がしていた。
一命は取り留めたが、折れた槍は元に戻らない。
ガラクタと化した己を、武井が許せるとは思えなかった。
不慮の事故から間もなく一年。
まさか俺が教官を務める消防学校へ、武井が特別講師で来るなんて――。
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