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第2-1話あり得ない車
* * *
「いよいよ今日……か」
職員室での朝礼を終えてから、俺はデスクに置かれた卓上カレンダーを見て呟く。
春の大型連休を終えて間もない今日、武井による特別講習の時間が設けられた。
武井がリハビリを終え、特別講師としてやっていくことになったという話を聞きつけ、早々に校長がオファーを出した。
できれば講義の後、消防学校の教員として入って欲しいと頼み込みたいのだろう。他の学校へ取られる前に動いた、という下心が見えてくる。
多くの現場を経験し、命を救い続けてきた男。
現場に復帰できなくとも、その知識と経験は財産だ。稀有で優秀な人材を求めたい気持ちはよく分かる。
だが俺個人としては、毎日顔を合わせてともに仕事するのは気が重い。
俺のほうが二年先輩だが、年は近く同期みたいなものだ。
比較されるのも面白くないが、何よりあの重たい空気を常に漂わせて来た男と常に顔を合わせるのは、正直なところしんどい。視界に入るだけで胸が重くなりそうだ。
体格は俺の方が一回り大きく、現役の時は純粋な力も俺のほうが上だった。
それでも現場に出ての活躍ぶりは武井のほうが凄まじく、姿を現わしただけで隊員たちが安堵する精神的な柱も担っていた。
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