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第2-2話あり得ない車
若い隊員たちの間では『鬼神』と呼ばれたほどだ。
そんな鬼神の角が折れた今の姿は、果たしてどんなものだろうか――そんなことを思いながら、俺は壁にかけられた時計を見る。
もう間もなく武井が到着する時間だ。
たまたま手が空いている俺が出向き、応対することになっている。
軽い緊張感を覚えながら俺は立ち上がり、好天に恵まれて熱くなってきた外へと足を向ける。
正面玄関を出てすぐ、日差しの眩しさに目を細めていると、車の走行音が聞こえてきた。
車に詳しい訳ではないが、普段聞いている音とは少し違う気がする。
軽快なエンジン音に混じった、トゥクトゥクという低い音。車の音だと分かるが、少しバイクの音に近いような印象を受ける。
そして町はずれの何もない所にあるこの消防学校へ近づいてきたのは――鮮やかな黄色をした小型の外車だった。
道にでも迷ったのだろうかと思っていたが、その車は真っすぐにこちらへ向かい、躊躇せずに門を潜って外来の駐車場へと停まる。
今日の来賓は武井しかいないはず。
まさか……あれが武井の車?
あの彩り皆無な武士のような雰囲気を持っていた武井だぞ?
同じ隊になったことがある俺の同期が、武井は冗談を一切言わない、遊び心が微塵もない隙の無さすぎる、見た目通りの男だと言っていた。
それがプライベートでは、こんなに色鮮やかな車を? 信じられない。
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