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第4-2話不思議な感覚
早く講師の控室へ案内して、動揺を落ち着かせるために武井から離れなければ。
そう思い、俺は平時よりも少し早く大股に歩いてしまう。しかし、
「浜松さん、申し訳ない。歩く速さを落として頂けませんか? 事故の後遺症で、未だに体を思うように動かせられないので……」
武井の言葉に思わずハッとなる。
やけに連れ立って現れた男と距離が近いと思ったが、武井の体をサポートするために近くならざるを得なかったのか。
「いえ、こちらこそ申し訳ない。失礼しました」
納得できる理由を見つけて、謝りながらも少し俺の動揺が収まる。
言われた通りに歩みを遅くすれば、武井は俺の斜め後ろを問題なく歩いてくれた。
来賓用のスリッパに履き替える際も、武井の動きは鈍く、しかし確実に自分のことをこなして中へ上がる。
講師控室までは長い廊下を歩き続けなければいけない。無言でいるのは不自然で落ち着かず、俺は歩きながら口を開いた。
「本当に今日はよく来て下さいました。何度か武井さんを現場でお見かけしたことがありましたが、いつも素早い判断力と動きに感心してました」
「現場で会っていたのですか……まったく浜松さんに気付かず、お恥ずかしい限りです。現役でいた頃はあまりに必死で余裕がなくて、人の顔をあまり覚えられなかったのです」
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