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第1-1話秋を感じる昼下がり

 日差しは熱いが、風が涼しくなった。  庭の草むしりをしている最中、ふと風に肌を撫でられ、私は頭を上げて目を細める。  まだ夏の気配残っているものの、季節の移ろいを覚えて思わず口元が綻ぶ。  この平屋の古民家――桜間家が以前住んでいた場所で、詠士のパートナーとして生活を共にするようになって間もなく一年が経つ。  もう何年も一緒にいるような気もするし、あまりにあっという間でつい先日再会したばかりのような気もする。なんとも不思議な感覚だ。  額に滲んだ汗を拭いながら立ち上がり、私が全身で風を浴びて秋を感じていると、 「真太郎ー、少し休まないか? ちょうど良いものができたぞ」  縁側から詠士の声が飛んでくる。  振り返ればニッと得意げに笑う詠士と目が合った。  日本人離れした顔立ちと体格に一瞬見惚れてから、その手にある物へ視線が定まる。  小さな黒い皿に盛られた白い団子が三つ。脇にはあんこの小山。  もうそんな時間かと顔を綻ばせながら、私は詠士の元へ向かった。 「台所で何かしていたのは気づいていたが、団子を作っていたのか」  縁側に腰かけながら話しかけると、詠士は私の隣に膝をついて皿を置く。 「今夜は十五夜だからな。月見のお供には欠かせんだろ。ちょっと味見してくれないか?」  わざわざこのために買ったのか、竹の楊枝が添えられている。本当に食に対してはこだわる性格だと思いながら、私は艶やかな団子とあんこをともに口へ入れる。  もっちりとした柔らかな歯応えと、滑らかな舌触り。黒糖が入っているのか、あんこに香ばしさがあって深みがある。それと適度な塩気。  噛めば噛むほど素朴な団子とあんこは一体感を増していき、どこまでも口の中に旨みを広げていく。味わっていくと別のまったりとした濃厚ながら優しい風味もし始め、単純なはずなのに複雑だ。  差し入れで団子をもらったことは多々あるが、正直美味しいと思ったことはなかった。  ただモチモチした食感の甘いもの。舌触りはもっとザラつき粘ついていた。嫌いではないが、自分で購入して食べたいとも思わないもの。それが私の中の団子感だったが――。

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