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第1-2話秋を感じる昼下がり

「真太郎の舌に合わせて甘さを少し控えめにしてみたんだが、味はどうだ?」 「……美味しくて驚いている。どうなっているんだ、この団子は? こんなに滑らかで柔らかい団子は食べたことがない」 「白玉粉に絹豆腐を加えて作ったんだ。次の日になっても柔らかいままだから、遠慮なくたくさん作れるぞ」 「どれだけ作る気なんだ、詠士?! ……それと、あんこの甘さはちょうど良い。これで蕎麦ぜんざいを食べてみたい」 「そう言うと思って、蕎麦粉も購入済みだ。明日のおやつに作ってやるから楽しみにしていてくれ」  ……詠士、君という奴は……っ。  パートナーになる前から早々に私の胃袋を掴んだ詠士の手腕は、今もなお健在だ。  料理の腕はもちろんだが、私の好みを先読みして準備し、こうして胃と心をグッと掴む――これ以上私を夢中にさせてどうするんだ、と言いたくてたまらない。  内心、味と詠士の心配りに身悶えている私へ、詠士がニヤリと悪童の笑みを浮かべた。 「気に入ってもらえたようで何よりだ。じゃあこのまま夜に向けて準備していく。良い酒も飲みながら、十五夜を楽しもうじゃないか」  明らかに詠士から何か企んでいる気配がする。  私を驚かせたり、喜ばせたりすることが大好きな詠士。出会って仲良くなったばかりの頃も、今も変わらない性格に嬉しくなってしまう。  救助隊の隊長として現場でがむしゃらに仕事をしていた際、災害に巻き込まれて大ケガをし、障害を負ってしまったこの体は未だに力が入らず、出来ることが限られている。  そんな私を詠士は愛してくれている。  この幸せが夢なんじゃないかと未だに信じられない自分がいる。  でもそれを言えば、詠士から昼夜問わずに教えられる羽目になるのは見えているから、冗談でも口に出さない。この一年で学んだことだ。  私はうっすらと笑い、「ああ。楽しみにしている」と詠士の愛情を受け入れた。

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