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第3-2話可愛いからこそ

 不思議そうに首を傾げてから、詠士はウサギ団子をひとつ摘まみ、持ってきたきな粉を振りかけてパクリと頬張る。  一切の躊躇なし。  思わず私を息を引き、目を見開いてしまった。 「ど、どうしてそんな可愛いものを、平気で口にできるんだ……?」 「そりゃあなあ……俺は可愛いと思うものを口にしないと気が済まないからな。可愛いからこそ食べたくなる。今だって――」  不意に詠士の腕が伸びたかと思えば、頬に手を添えられ、唇を奪われる。  煌々と輝く月が、繋がり合う私たち二人の影を床に落とす。  いくら二人きりとはいえ、こうも明るく晒されてしまうのは……。  湧き上がる羞恥と体の奥で広がる甘い疼きに、私の腰が落ち着かなくなる。  そんな私の状態を見透かしたように、唇を離した詠士が妖しく微笑む。 「――食べれば食べるほど可愛くなる真太郎が、欲しくてたまらない」  時折見せる欲深なギラつきを覗かせる詠士の瞳に、思わず私の背筋がゾクリとする。  体の関係を持つようになって一年以上経っても、まだ飽きない。飽きるはずがないという詠士の切実な声が聞こえてくるようだ。 「……いつまで経っても趣味が悪いな」  本気になりそうな気配を、冗談の空気へ変わるように促してやる。  せめて月と団子と酒を楽しんでからにしてくれ。その後からなら、断る理由は何もないから――。  詠士がフッと笑う。その目からギラつきは消えていた。 「そうか? 俺は自分で良い趣味していると思うんだがな」  軽く私の唇をもう一度奪ってから、詠士は顔を離し、縁側に座り直してから杯に酒を注ぐ。  そして各々に杯を手にして、コツ、と縁を当てた。  秋の夜長を味わうために、名月の輝きを取り込んだ酒へ口をつける。  ――また忘れられない日ができた。  月見はこれからだというのに、湧き上がる確信に私の胸は昂るばかりだった。

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