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第5話 再会
『この道こんなに険しかったか?いや、子供の俺が行けたんだからそんなはずないようなあるような…はぁ、疲れた』
雪斗は自問自答しながら林の中を歩いていた。子供の頃はこんなに険しくなかったはずの桜までの道程が厭に険しく感じるのは体力が落ちたのか…いや、それにしても…と何回も何回もも心の中で思っていると、ふわりと花の香りがした。間違いない、これは桜の花の香りだ。桜は近くにある。そう確信すると足は軽くなりどんどん進む事が出来た。
『あった、この立派な桜だ…。桜!なぁ、居るか?居たら出てきてくれ!』
雪斗は大きな声を張り上げ桜を呼んだ。すると優しい風が吹きあの頃と何も変わっていない桜が姿を現した。
『雪斗、おかえりなさい』
そう言う桜は嬉しそうだが儚げに微笑んだ。
『桜!…やっぱり普通の人間じゃなかったんだなぁ。昔と姿形何も変わってない。この桜のように美しい。俺の事覚えててくれたんだ?』
『私を見付けられるのは雪斗だけなんですよ。覚えているに決まってるじゃないですか。そして…人間でもないのも当たりです。』
『俺だけ?や、それより桜は妖怪?幽霊?』
『ふふ…どちらでもありません。私はある人をずっと待っているんですよ。この桜と共に…。』
桜に待ち人が居る?雪斗は一瞬眉を寄せ苛立ちを覚えるも直ぐに桜の微笑みを見て、その微笑みの儚さに思わず抱き締めていた。
『…雪斗?どうかしましたか?』
『わからない…ただ、桜が余りに儚くて消え入りそうだったから…。それと、逢えて嬉しくて、さ。』
『甘えん坊なのは変わりませんね。外見はとても格好良くなりましたね、思わず人違いかと思うくらいには立派になりました。…あの人のようです。』
『あの人?誰だよそれ。』
『秘密です。いずれ解りますよ。』
桜の言葉に雪斗はこれ以上追求すると自分が傷付くのではないかと察し話を止めた。その代わり桜を思い切り抱き締めた。その身体は細く華奢で本当に女性のようだった。子供の頃とは違い今や見た目の歳は同じくらい、あの時いつも遊んでくれては助けてくれていた桜を雪斗はこれからは自分が桜を護ると決意した。何故そう思うのか、そんな事疑問にも思わず当たり前のように。
『雪斗は学校の先生になったのですね』
『え?』
『此処から見ていました。本当に立派になっていて嬉しかったですよ。…でも、何より約束を守ってくれた事が嬉しかったです。』
『絶対此処に戻るって?』
『はい』
桜は満面の笑みで頷いた。この数年桜は独りで此処に居たのかと思うと胸が締め付けられる思いに駆られ桜の頬に手を添えた。
『正直忘れかけてたし、桜の事も幻か夢かとも思ってたんだ。でもさ、俺の中で桜を求めている自分が居て…子供の頃どんな遊びをしたかとかどんな会話をしたかとかは薄っすらしか覚えてないし…桜の顔も忘れてたくらいなんだ…ごめんな』
『謝る事ではないですよ、それは人間として当然の事です。幼き日の思い出は色褪せやすい…それでも、それでも帰ってきてくれた。それだけで私は十分なんです。ありがとう御座います、雪斗』
そう言う桜の瞳から雫が落ち頬に添えていた雪斗の手に落ちた。泣いている理由も解らなければ、微笑みながら泣いている姿に雪斗は無意識に唇を重ねようとした瞬間風が吹き花弁が舞い散り二人は離れた。桜には理由が解っていたが敢えて言わずに靡く髪を整え結び直すと雪斗の頭を撫で微笑む。
『泣いてしまいすみません。雪斗、改めておかえりなさい。』
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