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甘い蜜 己の罪 3
心の方はというと、この屋敷から出たい気持ちが日に日に増していた。三ヶ月も経てば、あの男の執着心も落ち着くだろうと踏んでいたのに……甘かった。
「魔王」は俺に飽きるどころか、日に日にその愛情を増やしていった。というより、過保護になった。
俺を抱く時は相変わらずのサディストっぷりだが、それ以外は親のように世話を焼いてくる。俺の起床に間に合えば着せ替え人形のごとく服を着替えさせるし、俺が勝手に部屋を出る際はいちいち出てきて「服は着たか?」、「靴は履いたか?」と確認してくるし、食事の際は俺を自分の膝の上に乗せてせっせと食べさせる。赤ん坊じゃねえんだからとそれを拒むと、排泄の手伝いは我慢しているとか怖いことをほざいてくるので、食事だけはされるがままにしている。
溺愛、というんだろう。かなり屈折しちゃいるが、あの男なりの愛し方なのかもしれない。
正直なところ、身体はすっかり慣れてしまった。この屋敷で掃除も洗濯も調理も配膳もすることなく、日がな一日を暇だと思いながら過ごすことに。
そして男に抱かれることにも……
手荒れだってない、風邪も引かない、空腹を感じる暇さえない。
ここまで来れば、昔のような奴隷に戻ることの方が酷というもの。あとは俺の気持ちだけ。堕ちてしまえば、きっと楽だ。
だけど……
「……できるかよ、そんなの」
窓のガラスに拳を打ちつけ、誰に向けるでもなく呟いた。
苦しい。今、とても息苦しいんだ。
助けて。助けて。助けて。
助けて、かみ……
『エイシ』
「ひっ!?」
突然、俺の耳元で虫が湧いたようにあの男の声が囁いた。助けを求めたかった男の声ではなく、一番遠ざけたかった男の、だ。
俺は自身の右耳朶に触れると、指を滑らせある物に触れる。少しだけ熱を感じるそれは、ピアス式で俺の耳朶に貫通し装着されている。しかし普段の生活に支障がないよう、耳朶からはみ出ることなく小さなガラス玉の形となっている。色は瞳の色と同じブルーだ。
聞こえた声は、ここから発せられた。俺は僅かな悲鳴を上げたものの返事はせず、男の次の言葉を待った。どうせ、悲鳴を上げた俺に不服だろう?
『そんなに怯えなくともいいだろう。通信魔法については一から説明したはずだが?』
ほらな。予想通り、こいつは……「魔王」は不満を乗せた声音で俺に話しかけた。
てめえだから怯えんだよ。つうか、いきなりかけてくんな。
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