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んじゃ、好きにさせてもらおうか END
「なあ、マオ。俺はどうして……」
「エイシ。お前は人間だから今後も前世と同じ速度で身体は成長するだろうが、魔物と取り引きを繰り返した俺は不老不死……もはや死ぬこともなければ、生まれ変わることもないだろう」
マオは俺の言葉をわざと遮ると、膝の上のゴブリンに配慮しつつ、俺の肩を抱き寄せ自分の胸に閉じ込める。そして自身と俺の種族の差を話し出した。
どうしていきなりこんな話を? でもマオの口調はいつになく真剣だった。
肩を抱く力が、一層増した。
「だが、俺の血を飲めば、幾分かその速度を緩めることができる。不死とはいかずとも、不老くらいはできるだろう。しかし、逆を言えばそう簡単には死ねなくなる。そのリスクを知った上で、お前は今後どうしたい? 俺にできることなら、何でも叶えてやろう」
ああ、そうか。こいつ、不器用だったもんな。
俺はマオの真意がわかった。
競り落としたのも、俺を抱いたのも、何かの企みがあったわけじゃない。
ずっと一人で生きてきたんだよな。魔物たちを従者にしても、俺みたいな奴との出会いがなかったんだよな。
寂しかったんだよな。
マオはもう俺の知る神木ではないし、しかし俺のよく知る神木でもある。死んでからも俺のことは忘れず、ずっと生き続けて、そしてある日俺を見つけて……手に入れた。
でも俺は人間で、すぐに死んじゃうから……だから、俺がお前に気づかないのをいいことに、全くの別人を装って、俺に選択権を預けた。
お前と生きてもいいし、外で生きてもいいよって。だから屋敷の中に、あんな抜け穴を用意していたんだ。
友だちだもんな。……いや、違うか。
俺がお前を思っていたように、お前もまた俺を思ってくれていたんだな。意地悪で、最悪な抱き方だったけれど、お前の身体……すごくあったかいんだよ。
いつから気づいてた? なんて、無粋だよな。俺って考えていることが顔にすぐ出ちまうんだから……なら、前世でも、俺の気持ちにとっくに気づいていたはずだよな。
俺はマオの胸から顔を上げると、自分の前に人差し指を立てた。
「じゃあ、一個……すげえ、大事なこと」
「何だ?」
「その喋り方、やめてくんねえか? 俺、永遠にその喋り方をされると思うと、孫の手がいくつあっても足りねえよ」
そう言って自分の背中をポリポリ掻くと、マオは呆気にとられた様子で俺を見つめた。
「ははっ……あははっ! ふふっ……わかったよ。エイシ」
ああ、この笑い方……すげぇ久しぶりだな。
姿形が変わっても、お前の笑顔はムカつくくらいに清々しくて、格好いい。
『んじゃ、好きにさせてもらおうか』
どこの誰かは知らないが、そう言って俺をこの世界に生まれ変わらせてくれて、ありがとな。
「ああ、そうだ。土産だけど……お前、俺じゃなかったら煎餅なんて言ってもわからなかったぞ?」
そう言って、マオは魔法で手の平から小さな紙袋を出現させ、俺に手渡した。受け取ると、中には前世で食べていたものとは少し匂いが違うけれど、香ばしく焼かれた平たい菓子が入っていた。
「なあ、マオ……」
「何だ?」
「愛してる!」
そう言って俺は、こいつのほっぺにチューをした。
END.
追記:こちらの作品を加筆修正したものを同人誌にしました。同人イベントにて頒布しましたが、在庫があるため通販を始めました。ご興味ある方はアトリエブログまたはTwitterをご覧くださいませ。(22/10/18)
追記の追記:スピンオフ作品を公開しました。
「んじゃ、お望み通りにしてやるよ」というタイトルです。名もなき例のお方が主役カプの話です。よろしければご覧くださいませ。
https://fujossy.jp/books/26347
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