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第1話

                 *  ティリリリリ。  柔らかい電子音に気づいた潤太がコートのポケットからスマートフォン取りだすと、ディスプレイにはできたばかりの恋人斯波俊明(しばとしあき)の名前が表示されていた。  今日は十二月二十四日、クリスマス・イブだ。街はどこを歩いていてもクリスマスソングが流れている。そんななか潤太(じゅんた)は繁華街でいちばん大きなディスカウントショップにやってきていた。終業式をサボってオープンと同時に入店したので、まだ十時を過ぎたばかりの時刻だ。 「はい」  電話にでた潤太の声に、隠しきれないうれしさが滲む。それに気づいたのか、俊明はクスッと笑ったようだった。 『吉野、おはよう』 「おはようございます」 『今日、学校サボっているだろう? なんだかそっち、賑やかしいね。どっか、でかけてるの?』  そういう俊明は学校からこの電話を掛けてきているはずだ。 彼は今年の前期まで生徒会長をやっていた。だからそのときの仕事の申し送りが残っている彼はいまだ、執行部員との関わりが深いのだ。そのうえ彼自身もこの後期はクラス委員をやっているので、今日のような行事のある日には、学校を休めるわけがない。 「うん。俺、大智(たいち)先輩にもクリスマスプレゼントを渡したくって、いま買い物にきてます」  大智とは俊明のおない年の従兄弟であり、そして彼もまた昨日から潤太の恋人になった。潤太にはなんと現在、恋人がふたりもいるのだ。 『それなら、ちょうどいいか。吉野、それが終わったら、僕のアパートに来ない? ウチでお昼一緒に食べよう? それとも今日はほかに用事があるのかな?』 「えっ、いいんですか? 用事なんてないです! でも大智先輩にプレゼントは渡したいから、これから学校に持って行こうかなって思っていて……」  いまから学校に向かえば、きっとまだ間に合う。潤太は大智が下校するまえに彼を捕まえて、プレゼントを渡すつもりでいた。 『うん。だったらちょうどいいよ。今日はあいつも学校をサボっているからね』 「えぇっ⁉」  それを聞いて、ならば自分はこれを彼の家まで届けにいかなければならないのかと、潤太は左手に握りしめた紙袋を見下ろした。 (ど、どうしよう? 俺、大智先輩の家、知らないや) 『で、いま吉野に電話をかけるまえに、一応大智も誘っておいたんだよ。不本意だけどね。あとでバレたらぬけがけしたって騒がれそうだから……』 「じゃぁ、大智先輩は?」 『吉野がぼくのアパートに来るなら、大智もこっちに出てくるって云ってる。だから吉野――』 「行きます!」  最後まで聞かずに食い気味に答えた潤太に、電話の向こうの俊明は今度は朗らかに笑った。

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