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第2話

 潤太は今年の春入学した青陵(せいりょう)学園で、一学年上の生徒会長だった俊明に恋をした。  その気持ちを伝えるべく彼の靴箱に何度かラブレターを入れたのだが、返事はまったく来なかった。それもそのはず、潤太は間違って「新波(あらは)」という彼とよく似た名まえの別のひとの下駄箱に、俊明宛のラブレターを入れ続けていたのだ。  連日なぞの封筒が届くようになって困り果てた新波が相談した相手が、成瀬(なるせ)大智(たいち)だった。  大智はラブレターの差出人が自分が所属していた陸上部の後輩であることに気づいて、その後輩である潤太のところにやってきた。そして潤太のあぶなっかしい俊明へのアプローチ大作戦の手伝いを買ってでてくれたのだ。  ところが潤太が大智と行動をともにすること二カ月余り。気づけば潤太は彼のことを意識するようになっていた。しかも意識していたのは自分だけではなかったようで、クリスマス前日にあたる昨日の放課後、俊明に告白しようと意気揚々と彼のいる執行部室へ向かった潤太は、その教室のまえで大智に襲われ、好きだと告白されたのだ。  そしてその現場を俊明に見つかってしまった。  着乱れて廊下の端っこでへたっていた潤太は、教室の腰高窓から半身をだした俊明にキスされて、――大智の目の前でだ! 自分たちが両想いであることを教えてもらった。  結果、潤太はふたりとつきあうことになった。  それは潤太がどちらかひとりを選ばなかったからではない。どちらも大好きだったからだ。どちらともずっと一緒にいたかったから、俊明と大智の両方を選んだのだ。  恋人がふたりというのもおかしな話かもしれないが、大智と俊明はそれでいいと云ってくれた。  ちなみにふたりが従兄弟同士だと知ったのは、そのあとすぐの帰り道でのことだった。大智がやたらと俊明の動向に詳しかったのは、必要に応じて彼が俊明に訊いてくれていたからだと謎も解けた。  ふたりは仲が悪いらしいが、お互いの動向を教えあうくらいなのだから、そんなに険悪な関係ではないのだろう。  恋人になったばかりのその日のうちに、はじめて三人で一緒に下校できた。それがつい昨日のことで、そして一夜明けた今日は、潤太にとって恋人のいるはじめてのクリスマスだ。  昨日はとくになんの約束もなくふたりと学校最寄りの駅のまえ別れたのだが、今頃になって潤太のところへ俊明からの連絡が入ったというわけだ。 「いくいく! いきますっ」  やったーぁ。と、潤太は心の中で、バンザイした。 「じゃぁ、俺なんか買っていきますね。先輩なにがいいですか? 食べたいものとか、飲み物とかなにかあります?」 「うーん」  俊明は(しば)らくの間をおいたあと、「なにもいらないかな」と答えた。彼は「身、ひとつできてくれていいからね」と続けたのだが、しかし。 (そうも、いかないよね)  高校生ともなれば他所(よそ)のお宅にお邪魔するときには、手土産のひとつでも持っていかないといけない。そう兄に(しつけ)されていた潤太は、駅ビルのデパ地下でいくつかの総菜をみつくろってから電車に乗った。  揺れる車内で膝にのせた紙袋の中を覗きこむ。なかには買ったばかりの大智へのクリスマスプレゼントが入っていた。 「よろこんでくれるかな?」 (そういえば先輩たちって、なにが好きなんだろう?)  好物だけではない。彼らとのおつきあいははじまったばかりなので、潤太は彼らについて知らないことだらけだ。ちゃんと知っておかないといけないだろう。なにせ、自分は彼らの恋人なのだから。 「今日、会ったらちゃんと聞いておかないとね」  そう呟いて、潤太はにんまりと笑った。

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