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第6話

(恋人。ああ、恋人。はぁ、あぁ、恋人。俺もうほんと幸せ。はぁ、そして、ケーキ、おいしい……)  見目よい俊明と、だんだんカッコよく見えてくるようになった大智の顔を交互に見つめ、ふたたびぱくりと甘いケーキを口にする。  大好きな俊明と大智に挟まれて、こんなに高級ででっかいクリスマスケーキが食べられる。潤太はいまこの瞬間になら死んでもいいと思えるぐらいにハッピーだった。 「先輩先輩、俺、ケーキ、大好きなの。一日早く食べれるなんて、幸せ」  ホールケーキをでっかいスプーンで掘りかえしては、大きく開けた口のなかにがぶがぶと運んでいく潤太を、俊明と大智は珍しそうに眺めてくる。いや、わずかに引いているようにも見えないでもない。 「おまえん家は、クリスマスケーキって二十五日に食べるのか?」  大智の質問に、潤太は首を傾げた。 「え? ふつう二十五日じゃないの? だってプレゼント貰った日にケーキ食べるでしょ?」 「いやー。二十四日じゃないかな? イブの晩飯のあとに食わない?」 「ええぇ!? うっそー。違うよね? 先輩?」  信頼のおける俊明に確認する。なにしろ潤太にとって彼は、眉目秀麗、成績優秀の元生徒会長さまだ。 「クリスマスのお祝いとして食べるなら、二十四日の日没から二十五日の日没までに食べるのが正解なんじゃないかな?」  スプーンを咥えたまま俊明を見上げる潤太の期待に応え、彼はさっそくさらりと答えてくれた。 「えっ⁉ そうなの? 二十四日の夜にばぶーってイエスが生まれたんじゃないの? で次の日、親戚に知らせてみんなで朝からパーティしたって、俺、ずっと思ってたんだけど?」 「パーティ⁉」  うっそぉ? と目を見開き、すっとんきょうな声をだした潤太に、大智が噴きだした。 「吉野、二十五日はイエスが生まれ日じゃないんだよ。イエスが生まれたことを祝う日。イエスが生まれた日は不明なんだって」  俊明が沈鬱な顔で説明してくれる。 「え? そうなんだ。知らなかったぁ。ねぇ? 大智先輩」  生徒会イコール頭がいいと信じている潤太は、運動部イコール頭がよくないとも思っていて、当然大智も自分の同類とみなして話をふると、速攻額に彼の裏拳が額に飛んできた。 「いたっ!」 「知ってたわっ! おまえ、俺を馬鹿だと思ってるだろ? おまえと一緒にするな」 「だって、俺のこといつもバカバカ云うからさぁ。バカっていう先輩もバカになるんだもん」  いちいち叩かないでよ、とオデコを(さす)りながら、潤太はぶうっと膨れてみせた。 「男がもん、っていうな。あと、そんな顔したって、かわいくないぞ」 「べつにかわいさなんて狙ってない、よっ!」  またもや「もん」と云いかけて、慌てて「よっ!」と云いかえる。  意地悪なことを云う大智にビッと舌をだすと、潤太はそのまま拗ねたように口を尖らせた。 (かわいくないかぁ)  かわいさなんて狙ってはないけどさぁ。よく、かわいいとは云われるんだけどねぇ。 (そっかぁ、大智先輩、俺のことかわいくないのか……)  ちょっと残念?   がっかりしかけた心を元気づけるため、潤太はまた口に「あーん」とケーキを運びいれる。 「はぁ、おいしぃぃ」  そんな潤太の唇はぷるっと愛らしく、自覚はないがよくひとの視線を集めている。  じつはこのときも俊明と大智の目が潤太の唇に釘付けになっていたのだが、当の本人はまったく気づくことなく、同じ行動を取っていたふたりだけがそのことに気づきあって、気まずそうに顔をそらしあっていたのだ。

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