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第5話

 テーブルにはメレンゲとチョコが載った、フルーツたっぷりのお高そうな特大ケーキのほかに、俊明が用意してくれたチキンやサラダ、フライドポテトなどのパーティむけの料理の数々が並んでいる。冷めてしまって味が落ちるともったいない。潤太は腰を下ろした大智に続いて彼の隣にペタンと座って陣取ると、さっそくフォークを握った。 「大智先輩、もう食べてもいいの?」 「おー、食え食え」  ちょんと手をあわせて「いただきます」をしたあと、はじめにケーキを食べると云うと、大智がキッチンからデザート皿を持ってきてくれた。そしてケーキを丁寧に切りわけると一切れを載せた皿を「ほい」と渡してくれる。  ケーキのうえに散りばめられていたトッピングをすべて潤太の皿に載せてくれるという、大智のサービスぶりに、潤太は舞いあがった。 (大智せんぱいぃぃいっ) 「ありがとうございます!」  大智は部活の先輩から恋人に昇格した途端、潤太の扱いをグレートアップしてくれたようだ。 (恋人っていいなぁ。こんなにやさしくしてもらえるんだぁ) 「はぁっ。これとか、これとか、めちゃかわいいし。食べるのもったいないぃ」  潤太はてんこ盛りにしてもらったトッピングのなかからサンタのメレンゲドールを抓みあげると、頭からガシガシと齧ってあっというまに食べてしまう。 「それでも、食べるんだな」  大智が呆れた声をだし、 「かわいいと云いながら、なかなかえげつない食べかたするね。あ、また頭からいった……」 と、俊明がまじまじと潤太を見つめる。けれどもメレンゲドールをうっとりと咀嚼する潤太には、ふたりの揶揄(やゆ)なんて耳に入っていない。 「うぅぅっ。サクサクシュワシュワ。おーいーしーいー!」  首のないトナカイを左手で振りまわし、次いで口のなかにケーキを放りこむ。舌のうえでほどけるような滑らかな生地に、そして風味ゆたかなミルククリーム。ああ、これもなんて甘くておいしいのだ。 「おかわりっ」  ふざけて空になった皿を大智に差しだすと、なんと大智は食事の手を止めて、差し出した皿にお替わりのケーキを載せてくれたのだ。最高だ。 「えへへへへっ」 (ビバ! 恋人。 ビバ! 彼氏ぃ)  潤太はほかの料理に目もくれないで、有頂天でケーキを頬張り続けた。すると暫らくして、目のまえの皿が奪われてしまう。 「あっ!」  顔をあげた潤太の目つきは思い切り恨みがまし気だったが、それが俊明の仕業だとわかった瞬間に、にへらとした笑顔に変わった。卑しいヤツだと、ケーキひとつで俊明に嫌われてしまうなんてことがあってはいけないのだ。 (なんか俺、気に障ることをしたのかな? とりあえず謝っておく?)  フォークを咥えた潤太が、むむっと首を傾げたのは俊明の表情に引っかかるものを感じたからだ。しかしそれは杞憂だったようでにこっと笑った彼は「もうこっちで食べなよ」と、ケーキ本体が載った大皿のほうを潤太のまえに置いてくれた。 「えええっ‼ これ全部食べていいんですかっ⁉」 「かまわないよ」 「先輩、ホントにホント⁉」 「ああ、本当だって」  やさしく微笑まれて、頬を染める。 「……えと、先輩、ありがとうございます」 ついには「どういたしまして」と彼にウィンクまでされてしまい、潤太の身体はくらりと傾いた。 (ああ、先輩……、大好き……)  ちなみに潤太のなかでは、ふたりきりで接することの多かった俊明のことは『先輩』で、部活で多くの先輩たちと一緒に接してきた大智のことは『大智先輩』だ。  いつのまにかキッチンに行っていた大智も戻ってきて、「ほらよ」と潤太が握っていたデザートフォークと大きなテーブルスプーンを取り換えてくれる。なるほど、これでケーキが食べやすくなった。 「大智先輩もありがとう」 (……俺、愛されているなぁ。はぁ、幸せだ)  潤太に恋人ができたのははじめてのことだが、恋人がこんなに自分に都合の良い存在だとは思ってもいなかった。しかもそんな素敵な存在が自分にはふたりもいるのだ。

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