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第9話

「大智先輩もスノードーム欲しいでしょ? うちにいっぱいあるから今度取りに来てね」 「いらねぇ」 「ひどっ。なにそれ、つまんない。せっかくお揃いにしようと――」  そこまで云った潤太は「あっ!」と叫んで口を押えた。チラッと俊明を見ると、案の定聡い俊明の目じりが優しく下がっている。 「そっか。吉野は僕とお揃いのものが欲しかったのか。なるほど、ね」 「えと、そのぅ……。はい」 (恥ずか死ぬぅ。『お揃いをつくってなんちゃって恋人気分作戦』がバレてしまったぁ)  よもや作戦名まではバレてはいないだろうが、潤太は耳まで赤くなる。 「吉野……」 「せ、先輩」  火照った耳に指をそわされ、ドキドキしながら見つめあうこと三秒。 「お前ら勝手にいい雰囲気つくんな!」 と、潤太はまたもや大智に頭を叩かれた。 「(いった)いっ! 大智先輩なんで叩くの!」 「ってことは」  ムッとしていた大智の顔が、いきなり明るくなる。彼はリビングの隅に置いていた紙袋を引き寄せてきた。 「さっき俺にくれたヤツも、お前の持っているなにかとお揃いなのか?」  嬉々と問われた潤太は、しかし首を横に振った。 「ううん、それはね――」  「ちがうよ」という言葉は、潤太の口から発せられることはなかった。  ビリビリとクリスマスデザインの包装紙を破っていく大智が、鼻歌まじりで楽しそうだったからだ。すこし子どもっぽくも見える大智の姿に、 (こういう大智先輩もいいなぁ) と、ときめきいていたので、中身がなにであるか教えるのが遅れてしまう。 「でっけぇ箱だ、な……?」 「うん。それはね、」  しかし潤太が口にした商品名は、包装紙からその全貌が表われたとたんにあがった大智の悲鳴でかき消されてしまった。 「うっわああああぁっ‼」 「ひゃんっ」  耳もとで叫ばれて耳の穴に指を突っこむ潤太の膝のうえに、彼が天井に向けて放り出した箱が弧を描いてうまい具合にストンと落てきた。箱の中のなんともかわいらしいチャッピー人形と目があい、潤太は顔を綻ばせる。 「ふふふ~。やっぱりかわいいーっ」 「なんだそりゃっ⁉ 気色わりぃっ」 「ええぇっ⁉ なんで? チャッピーちゃん、こんなにかわいいのにぃ。えっ、ダメ? 大智先輩ダメなの?」 「ないわっ! ビックリするわっ、なんだそれは⁉」  箱から取りだした赤ちゃんサイズの人形の脇に、手を差し込んで掲げて見せる。すると俊明までもが「うわぁ」と頬を歪めた。 「どうして? なにがいけないの? ほらっ。チャッピーちゃんだよ? 知らない? 映画で見なかった?」 「ばかっ、こっち向けんなっ」  大智が広げた手の平をのばして、なんとか人形と目が合わないように阻止する。 「あぁ、アレか。ホラー映画の。確か主人公がかわいがっていた人形が動きだして大殺戮を起こすんだよね?」 「そうそう。店でコレ見つけた瞬間に、あんまりにもかわいいもんだから、もうっ大智先輩には絶対コレって思ったの。チャッピーちゃん、惚れちゃったよ。はぁ、やっぱり俺もおんなじの買っちゃおうかな」  うっとりと呟いている潤太には、「だったらそれを持って帰れ」と酷いことを云っている大智の言葉は聞こえていない。 「そしたら大智先輩とお揃いになるし……ごにょごにょ」  自分で云っておいて羞恥した潤太は、「きゃっ」と小さく叫ぶと血まみれの人形で顔を隠した。高校生たるもの恋人とお揃いというシチュエーションにはとても弱い。 「そんな顔面崩壊した人形もって赤くなったって、ちっともかわいくなんてないぞっ!」 「ひっどーっ。だから別にかわいさなんて狙ってないってば!」  傷だらけの少女の人形が握っていた包丁を抜きとって、「これ、ほかにもアイテムがあって、いろいろ持ち替えられるんだよ。添い寝するだけじゃなくて、遊べるんだから」と、潤太は商品の良さを大智にアピールする。

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