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第12話

「これな、大智。まぁ、開けてびっくりだよ?」  俊明が包みから取りだし、吊り下げるようにしてぺらりと広げたものは、胸と裾に真っ白いファーとフリルがついたAラインの真っ赤なワンピースだ。 「はい?」  俊明が揺らしたワンピースに、大智が目を丸くして口をぽかんとあけた。 「……なんだそりゃ? サンタコスかっ⁉」  大智の質問にこっくりと頷いた俊明は、感想をわくわくと待っていた潤太に振り返ると、とてもうれしそうに目を細めた。 「これ、とってもセンスいいよね」 「でしょでしょ?」 (わーい、やったぁ。褒められた!) 「吉野のお兄さんって、きっと本当に完璧なお兄さんなんだろうと思うよ。こんないいものプレゼントしてもらったの、僕、人生ではじめてかも」 「うそっ、やった!」  贈り物ってとっても素敵だと、潤太はいつも思うのだ。相手がよろこぶものをと考えているあいだは、自分がとっても愉しくいられるし、受け取ってくれた相手が笑ってくれるとまたうれしくなれる。  この与えたつもりが与えられていた、という不思議な感覚を味わうたびに、潤太は生きていることが幸せに思える。いまもまた最高な気分を味わって、潤太は花が綻ぶような笑顔を浮かべた。  そんな素直な潤太には、俊明の浮かべている笑みが自分のものとは違った不純なそれだとはわかるわけがない。大智が俊明の持つ赤いワンピースと、得意げにしている潤太を交互に見比べて云った。 「本気か、お前。やるな……」  もちろん大智は呆れているのだが、潤太は大智にまで褒められてしまったと照れて「えへへ」と頭を掻く。 (やっぱり、兄ちゃんってすごいな)  先日潤太が兄と商店街を歩いていると、ディスカウントショップのまえにサンタクロースの服を着たマネキン人形が立ち並んでいた。  サンタクロースの服といっても、あの白いヒゲをつけたおデブな姿のサンタクロースが身に纏っている定番のものとは違い、セパレートタイプやワンピース、スカートの丈もロングからミニまで多種揃った女性ものが多くを占めていて、たいへん見ごたえがあった。   女子高生や複数の若い男子グループたちが、足をとめて生地を触ったりスカートを広げたりしていたので、釣られるようにして、潤太も兄と一緒にふらふらとそこに足を運んだのだ。  ディスカウントショップなど売っているコスプレ衣装はチープなものが多いが、その店に並んだ商品は仕立てが丁寧で、上品な感じがした。  すでに街ではクリスマスソングがあちこちで流れていて、ぐるりと周囲を見渡せばサンタクロースの衣装で働くひともちらほらといる。  うむ。やはり季節モノってみんなが喜ぶよね。演出は大切! と潤太が悦に浸っていると、兄がぼそりと呟いたのだ。  ――こういうの、……いいよなぁ。  やはり兄も季節の遷り変わりを大切にするのだと、潤太は兄も自分とおなじでいてくれてうれしかった。  ――ねぇ、にいちゃんは、どれがいいと思う?  一瞬兄はしまったという顔をしていたのだが、それには潤太は気づかないで、くりっとしたまるい瞳でじいっと兄を見つめた。  ――俺か? そうだな…‥。あの大きなリボンのついているヤツがかわいくていいかもな。ハハハ。  その兄がかわいいと云っていた大きなリボンを、俊明が楽しそうに突いているのを見て、潤太は感性だけでなくセンスまでよかった兄への信頼を、今日このときにまた、いっそうと強くしたのだ。 「先輩が気にいってくれてよかった」 「うん。いいねぇ、コレ」 「へへへっ。やっぱり兄ちゃんってすごい」 「うん。吉野のお兄さんはすごいよ」  俊明がにこりとするとなりで、大智が胡乱(うろん)な顔をする。

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