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第11話
「もーっ、なにその態度っ、失礼すぎるっ、大智先輩、超ムカつく!」
憤慨した潤太は床にひっくり返って笑い転げる大智に跨ると、げんこつで彼をボカスカ殴りだす。
「やめろ、やめろっ、痛いって! ギブ、ギブ!」
「誰がやめるか! ちゃんと謝って!」
明らかに自分とは違う硬い胸筋さえも腹立たしい。
「う~ん、くやしいっ」
広げた手のひらでバシバシ彼の胸板を叩く潤太だったが、なんと大智が一度ブリッジをしただけで、コロンと彼のうえから転がり落とされてしまったのだ。
「おぉっ、軽っ」
「くぅぅぅっ、腹立つぅ! 腹立つぅ!」
腹ばいのまま今度は床をドンドンと叩いていると、潤太は脇に手を差しこんできた俊明に、ひっぱり起こさた。
「ほらほら、吉野、こっちおいで」
と、そのまま彼の膝のうえに抱っこされてしまう。
(うっひゃぁぁぁぁぁっ)
「おい、こらっ、俊明!」
頭に添えられた手でぐいと胸に顔を押しつけられフリーズ状態になった潤太には、なにやらギャーギャー叫んでいる大智の声なんて右から左だ。
(せ、せ、せ、せんぱいっ。このままだと、俺、心臓が壊れちゃうっ)
好きなひとの腕にしっかりと包まれてしまい、カチコチに固まった潤太の全神経が、俊明に集中していく。伝わってくる温もりと、意外に逞しかった胸の広さと、そして花のような衣類の香り、それらをはじめて知ってしまった。
今日ここに来た潤太の目的のひとつは、彼らのことを知り、そして彼らに自分のことを知ってもらうことだ。
(それって、こういうことも、なんだ……)
昨日に引きつづき、またすこし大人になってしまった。
「吉野ってさ、もしかしてお兄ちゃんっ子なの? しょっちゅうお兄ちゃんお兄ちゃんって、口にしているよね?」
「そ、そんなことないです」
耳のすぐそばでされる質問に、胸のまえで小さく手をふり「ちがいます、ちがいます」と否定する。恥ずかしさのあまり思考がまとまらないが、先輩の質問にはちゃんと答えなければならない。
(そうだ、俺のことも、ちゃんと知ってもらわなきゃ)
「ただ、俺の兄ちゃんすっごい完璧なんで。云うこと聞いていたら間違いないってくらい、すごいんです。ただソレだけってことで」
恋人に自分のことに興味を持ってもらえたことも、大切な家族のことを知ってもらえたことも潤太にとっては大きな収穫だ。しかも膝ダッコで。
(はぁ、これぞまさに恋人同士って感じがする……)
「完ぺきなブラコンだな」
「へ? なにか云いました?」
今のは俊明の声が小さすぎて、よく聞こえなかった。けれども「いいや、なんでもないよ」とにこりと微笑まれると、「あら、そう?」と潤太はどうでもよくなる。
「そうそう、斯波先輩のクリスマスプレゼント。あれもねぇ、実は兄ちゃんがね――」
「ああ、なるほど」
「そういうことか」と、俊明がポンと手を打ったタイミングで潤太に大智の腕が伸びてきて、
「あっ」
「お前ら、いい加減離れろ」
「あっ、あああっ」
抵抗も空しく、潤太はずるずると俊明の膝のうえから引っ張りおろされてしまった。
「俺のまえでいちゃいちゃするなって、さっきも云っただろ」
「あら、そう?」
「なにが、あらそう? だっ!」
「いてっ。もう叩かないでよぉ」
ペチッとされた後頭部に潤太が手を当てていると、「大智っ、だからそういうのヤメろ」
と乱暴な従兄弟を諫 めた俊明が、「よしよし」とでもいうように当てていた手のひらごと、潤太の頭を撫でてくれた。
「じゃあ、この吉野がくれたクリスマスプレゼントってさ、吉野のお兄さんの趣味なんだね」
「うん! そういうのもありかなって。どう? 気に入ってくれました?」
「お、それ、中身 、なんだったんだ?」
俊明が片手で持って閃かせている包みこそが、今回潤太が彼のために用意したクリスマスプレゼントだ。だからさきほどの星の電飾やスノーボールとは違って、こちらにはちゃんとクリスマスカラーの包装紙が使われ、金色のリボンとベルまでついている。潤太は、
「はやく大智先輩にも中身を見せてあげて」
と、いっそうテンションを高くした。
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