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第20話

「あぁ……やっ、やっ、なにっ? なんでっ?」 「吉野、少しおとなしくしてて」  きっと見ているだけだったのなら、我慢はたやすかったのだ。しかし俊明はこの感触を、本人に内緒で一度味わってしまっていた。その甘さを知っていたからこそ渇望していたのだ。 (あのとき、うっかりキスなんかするんじゃなかった)  あのとき――。  俊明は入学式のあった日に、用事で訪れた保健室で眠っている潤太をみつけていた。  はじめ俊明は校内の保健室なんかで男子高生がぬいぐるみに挟まれて眠っていることに驚いて、それからその寝顔があまりにもかわいらしかったので、こっそり頬を突いてみたのだ。  その頬は見た目に違わずつるつるで。俊明はのめりこむ柔らかい感触にいけない衝動を起こしてしまって、たいへんばつの悪い思いをしたのだ。そこでちょっとした意趣返しだと、すぴすぴ眠り続ける彼に、こっそりキスをした。  名まえも知らなかった潤太に再会したのは、それから数日後の役員会議でだった。俊明は起きている潤太のぱっちり開いた大きな瞳に圧倒されて、そして自分をみてさっと頬を赤らめた彼にドキッとした。  いいなと思って手を出した子に、この二千人を超えるマンモス校で、こんなに簡単に再会できてだ、あまつさえドキッとしてしまったんなら、運命を感じても仕方ないのではないか。    それに潤太はしょっぱなから、自分に気があるような素振りをしていたので、俊明としても気にならないワケがなかった。もともと相手がだれであろうが、わかりやすく恋心を向けられることは好きだ。ましてやその相手が、目をつけていた潤太であるのだから、恋に落ちるのはあっというまだった。 (ずっと吉野を好きだったんだから……)  長いキスを愉しんだ俊明は、唇を離すときにひと際おおきくチゥッと音を立てた。  潤太は伏し目がちで恥ずかしそうにしている。まつ毛が影を落とし、そこから続く頬は柔らかいラインを(えが) いていた。そうだ、ここに一番はじめに魅せられたのだ。 (……貴重だな)  あぁ、もう一回と、そっと彼の頬を両手で挟んで、皮膚の感触を愉しみながら口づける。 潤太は床のうえに置いた手を、ゆるく握ったり開いたりを繰り返している。今どき処女でも、こんなにぎこちない子はいないのではないか?   でもこの慣れない反応もきっと今のうちだけだ。そのうち彼のほうから抱きついてキスをしてくるようになるだろうし、無遠慮に舌をからめてきたりもするのだろう。 (だったら、この初々しさをしっかり愉しんでおかなきゃな) 「せんぱぁいっ、…………も、」  なにか云いかけて開いた口のあわい目に舌を差しこむと、ケーキの甘い香りがした。 「やっ、んんっ……」  俊明は逃げだそうとした潤太の両の手首を掴んでひっぱりあげると、頭上に縫いとめた。 「なっ……、やぁっ……」  小さな隙間からぬるぬると舌を抜き差しする。口腔で怯えるように逃げ惑っていた潤太の舌と、自分の舌がはじめて触れあったとき、俊明の背筋に震えが走った。同じようにして、潤太の身体も細かく震えたことに、漸く彼も感じてくれたんだとほっとする。 「せんぱ、い……っ。もうっ、ダメッ、終わってっ……ねが、いっ」  密着した潤太の身体が温かい。少しまえから彼のモノが自分の腹部を圧し返しはじめていた。好きな相手が自分とおなじオトコだったなら、ではその相手の秘部は、自分にとってどんなものになるのだろうか。それは自分にどんな気をおこさせて、どんな行動をとらせるのだろう。 (とりあえずは、見てみたい)  潤太のそこがどうなっているのか知りたくなった俊明は、口づけを解くといちど上体を起こした。 (うっわっ……)  涙目で見上げてくる潤太の脚はしどけなく開かれ、太もも丈のAラインのスカートは屹立する彼の性器で押し上げられている。それは下着が見えそうで見えないという絶妙な具合だった。 「吉野……」  エッロ、という低劣な言葉を俊明は慌てて嚥下した。

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