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第19話

 やっと顔をあげた潤太が、まるでお日様みたいな笑顔をしていたので、俊明は衝動的に彼に口づけていた。  やわらかい頬に手を添え、唇で唇を撫でながら角度を変えていく。薄く目を開けてこっそり覗いてみると、潤太は目尻に皺をいっぱい寄せてぎゅっと目を瞑っていた。握った拳が彼の膝のうえにちょこんと揃えられている。 (かわいいすぎる)  触れるだけの軽いキスを解いたあと、おわりの合図がわりにペロッと彼の唇を嘗めた。ピクンと肩を竦めた潤太が、そろそろと瞼をあげる。 「…………で、あ、あの、ね。その、」 (ダメだ、足りない!) 「先輩の好ぶ――っ、んっっ!」  間近からきらきらの瞳で見上げられて、俊明はもう一回! と、またすぐに潤太にキスする。今度はちょっとエッチな唇を食べるようなキスをしながら、彼の肩に置いた手に力をいれて、潤太をゆっくり床に押し倒していく。 「んっ⁉ ――っ、やっ、ちょっ、先輩⁉ 俺っ、ケーキっ、ケーキっ! ――っ、んんっ‼ ……⁉」  抵抗は長くはつづかず、潤太はじきに大人しくなるとぎこちなく力を抜いて、床に背中を預けてくれた。俊明は念のために、逃げられないようにと彼の両肩の横に肘をついておく。 (吉野の唇柔らかい。……リップとかしてないし、吉野とするの、すごくいい)  昨日学校ではじめて潤太にキスをしたときにも、女の子とするのと変わらないやと思ったし、気持ちもよかった。しかし今、こうしてじっくりと味わってみると、潤太とのキスは口紅の嫌なべたつきや、あとにひく邪魔な匂いがないことに気づく。そしてこの唇は思いのほか自分好みの感触だ。 「吉野……」  キスのあいまに、名まえを呼んだ。瞼も唇も硬くと閉じた彼からの返事はなかったが。 (今までの彼女たちよりも断然いい。こいつの唇、これ、癖になる……。すっげ……)  潤太の瞳を縁どるまつ毛は小さく震えていた。それを見つめながらいつまでもフレンチキスを堪能していると、次第に潤太の瞑られた瞼も、食いしばられていた唇も和らいでくる。  俊明は一度口づけを解くと、彼から顔を遠ざけて、そのふんわりとした瞼や頬、ぷるっとした唇を、じぃっと観察してみた。 (ほんと、かわいいって。なんでこれでオトコなんだ?)  性別の確認のためにぴらっとスカートを捲りあげてみたいが、それは早急(さっきゅう)だろう。驚かせて逃げられては元も子もないと我慢する。それでも――パンツをずらすのはもうすこしあとで、と、今日中にはそうしてしまうつもりでいるあたりが、男子高生。  我慢するかわりにとチュッと軽いキスをして、俊明はまた潤太の顔の観察をつづけた。指先で丸い瞼を撫でたり、長いまつ毛の先を突いたりもしてみる。 「先輩? も、……目開けていい?」  恐る恐るといったふうに潤太が訊いてきた。俊明の緩く勃起していた陰茎がまた少し硬くなる。バレないように腰を引きながら「どうぞ」と答えると、そうっと潤太の瞳が開かれた。 「あの、先輩」 「なに?」 「こういうのは、まだ、は、はやくて、俺、もっとお話とか、……俺ね、先輩の好きなもの……」 「なぁに? 吉野は、僕に好きなもの食べさてあげたいって、思ってくれているの?」 「そ、そうなんです、けどっ」  いつも以上にしどろもどろに話す潤太の頬を、俊明はキャンディーバーを舐めるようにして、べろっと舐めた。 「ひやぁっ、せ、せんぱっ――」 「じゃあ、遠慮しないでいただくね」 「……ゃっ⁉」  弱々しい力で胸を押し返してくる潤太の手を捕まえて、床に縫いとめるように押さえこんだ俊明は、ずっとずっと恋しかった唇を、思う存分に味わうことにした。春から今日までのあいだ、俊明がどれだけ欲求不満を強いられてきたことか。

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