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第28話

   甘いケーキを甘い気分で味わって、目を細めて「へへへへへ」と笑う。大智がやさしい表情(かお)をしていた。 「なぁ、吉野」  甘い声で名まえを呼ばれる。 「なんです?」  潤太も甘えた声で返した。 「――今、その口にキスさせろよ」 「へ? いててっ」  照れ隠しなのか、大智が頬をむにっと抓んできた。 「えっほ、ほれは――」  甘くお願いされても、聞けないリクエストだ。大智の手が離れていくと、赤くなった頬を撫でさすりながら、「……今は無理」と答えた。  なぜならば潤太は唇を触れ合わす行為が、性的な興奮に直結していると、もう知ってしまったのだ。潤太の恋愛の知識は、子どものころに読んだマンガからずっと更新されていなかった。キスなんて、どきどきしながら恋人と唇同士をくっけて、背景に花でも咲いたらそれで終わりだ、と思っていたのだ。  それがだ、実はそうじゃなかった。潤太は昨日、大智に生まれてはじめてのキスをされたときに、潤太はキスの概念を新しいものに塗り替えたのだ。 (あっ、ヤバい!)  うっかり昨日した大智とのキスを思しだしてしまい、さっきから何度も()れていた潤太の性器が、また頭をむくっと(もた)げだした。 「でも、俊明にはさせたんだろ?」 「うー……」  それを云われると、弱ってしまう。なぜなら潤太がふたりにはやはり平等に接しないといけないだろう、と思っているからだ。  ふたりにプレゼントを用意したように、これからさき、いつもふたりには、同じように同じことをしていかないとダメなのだろうか? ひとりと手を繋いだら、もうひとりとも手を繋いで? ひとりと映画を見たら、もうひとりとも見にいくの? さっき俊明にパンツを見られ、胸を舐められた。だったら大智にもパンツを見せて、胸を舐めてもらわなきゃダメなの? (でも、それって、なんか違う気もする。でも……)  もやもやする胸に手をあてて、大智を見つめた潤太は、重く感じられる口を開いた。 「じゃあ、一回だけ。軽いヤツだよ?」  顎を上げてぎゅっと目を閉じると、唇を尖らせてどきどきしながら大智を待つ。  昨日の大智は潤太の唇を暫く食べるみたいにしていて、それでそのあと、口のなかに舌を侵入させてきた。結構長い時間、口のなかをべろべろと舐められたのだ。そしてそれはめちゃくちゃ気持ちよかった。 (またあんなことをされたらどうしよう)  股間に限界がきてしまうじゃないか。と心配していたら、大智の唇が自分のそれに触れてきた。敏感になっていた身体が、それだけでぞくぞくぞくっとする。  案の定、顎を掴んだ大智に無理やり口を開けられてしまったが、でも入ってきた舌に潤太が身を竦めた途端、口腔をぐるりとひと舐めだけしたそれは、あっけなくでていってくれた。 「あっまっ」  ほっとしたのも束の間で、潤太は絨毯に押したおされてしまう。 「うわっ!」 (なんか俺、キスのたびに転がされてない?)  キスなんて立っていてもできるんだから、絶対に座ったままでもできるはずだ。なのになぜに自分は毎度押し倒されるのだ? 潤太はこの体勢に危機感を募らせた。  ついさっきもこうやって俊明に転がされて、とんでもないことをされたばかりだった。それに大智には前科がある。 「なっ、なんでっ⁉ 大智先輩、やめてよっ」 (ちょっと、ふたりとも頭おかしいんじゃない⁉)  それとも二年生にもなると、大人とおなじようなことをしたいのだろうか? 「あ、あのっ。一回っ……、一回もう終わったでしょ? 」  そもそも軽いやつ、と約束したはずなのに、大智はそれを破っている。 「もうおしまいだよ。大智先輩、俺起きたいから退いてっ」  ちょっとはときめきもするが、このさきのことをされたらと思うと、潤太は怖くてしかたない。

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