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第27話

 自分なりに小さな脳みそを使って考えてみたが、さっぱり見当がつかない。 (怒りたいのも、泣きたいのも俺のほうなのに、まったく、もうっ)  理不尽だ。大智から顔を背けたまま絨毯の毛を毟ってると、ふいに大智の手が伸びてきて頭のうえに載せられた。ちょっとドキッとする。  そしてその手はすぐにしたに下りてきて、あやすようにして潤太の腿をぽんぽん叩いてきた。 「…‥?」  なんだと思って振り向くと、こちらを見ていた大智とやっと目があう。 「そんな、お前まで拗ねんなよ。吉野は悪くないから、普通にしてろ」 「大智先輩、もしかして拗ねてたの?」 (怒ってたんじゃなかったんだ?)  潤太は幾分ほっとした。しかし「んー」とだけ零して、彼はその先を云おうとしない。代わりに潤太の膝のうえの赤い布をぴらっと(めく)った。 「うわっ、なにす――」 「吉野、今ゆる勃ちしてるだろ?」  バチッと大智の手を叩き落とした潤太は、慌ててスカートの裾を取り返すと、股間を両手で覆って隠す。 「なっ、ちっ、ちっ、ちがっ――」 (そんなっ、ちょっとだけなのに、なぜバレた?)  真っ赤になった潤太に、大声で大智が笑う。 「もう、先輩っ、笑うなよ!」 「吉野。俺がいないあいだに、俊となにしたの?」 「えっ⁉ えぇぇっと……」  クスクス笑っている彼に、このまま機嫌を直してもらいたい。 (でも全部ホントのこと云っちゃていいのかな? 俺を巡ってまた先輩とケンカしちゃわない?) 「……ケ、ケーキを食べさせてって云われて」 「じゃあ、俺にもおんなじように食べさせろ」 「え、えぇっ⁉」 (まさか大智先輩がそんなことを云うだなんて!)  予想外の彼のセリフに驚いた潤太だが、同時に皆まで白状させられずにすんだと安心した。よし! このまま話をうやむやにするんだ。 「えっと」  大智が机にやった視線で、手付かずで残っていた大智と俊明のケーキ存在に気づく。 「そだ、まだ先輩たちのぶんがあったね」 「じゃ、俊にしたのと同じようにヨロシク」 「はいっ!」  口をぱかりと開いた大智に、潤太は楽しい気分にさせられた。彼が「あん」と口を開け、ひな鳥みたいにして待っている姿は、もしかしてちょっとかわいい?  もちろん潤太が俊明のときとおなじようにして、大智にヨロシクするわけがない。大智だって潤太がここでいきなりワンピースを捲りあげて、胸にケーキを塗りはじめたらビビるだろう。 (大智先輩、ごめんね)  潤太は心のうちで彼に詫びて舌をだす。そして罪悪感を払拭するために、笑顔を割増にした。 「じゃあ、大智先輩、もっと口を大きく開けてぇ、はい、あーんっ」  大智の口にフォークでひとくちぶんのケーキを運ぶと、 「あーん」 と、彼はぱくっと食ベてくれた。 (おおおおおっ、感動!)  潤太はうれしくなって、今日一番の笑みを漏らした。 (そうそう、これこれ。こういうのが恋人同士!) 「どう? 大智先輩、おいしい?」 「ああ、うまいよ」  無邪気な潤太の質問に、大智も口を綻ばせてくれる。彼の機嫌は完全に治ったようだ。 「あとは全部、アイツのぶんも吉野が食ったらいいよ」 「へへへ。やった。大智先輩ありがとー」  にっと目を細める大智に、どんどん気分があがってくる。 「じゃ、こんどは俺が食わせてやる」 「そぉう? じゃぁ、あーんっ、あーんっ」  ふざける潤太の口に、「ほれ、食え、食え」と、次々とケーキが放りこまれた。 (あまーい。おいしーい。やさしーい。大智先輩大好きーっ) 「ほらよっ、ラスイチ」 「名残惜しい……。けど、あーんっ」  最後のひと匙を口に収めると、潤太は満足感いっぱいでぺろっと唇を舐めた。

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