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第30話
悲しい気持ちを引き摺っていても、大智がしてくる口腔を探るようなキスはやはり気持ちいい。じっとしているぶんだけ余計に体内に心地よさが染み渡ってくる。
「んっ……んっ」
絡めとられた潤太の舌は、その上辺を舐めあげられて、ぴちゃり、と濡れた音を響かせた。首の後ろあたりがちりちりする。
(おかしくなりそう)
俊明に乳首を触られたときの強い刺激とはまた違う。戸惑いながらも素直に口内に迎えいれたキスはとてもやさしくて、潤太の身体がふわふわしてくる。
「あん……んっく……」
勃ちあがっていた性器はそろそろ痛いほどだ。
(逃げたいよぉ。今日はもうお家に帰りたいよぉ。このままじゃ、俺たちどうなっちゃうの?)
昨日は抵抗しまくって事なきを得た。さっき俊明にだって徒 らみたいに軽くタッチされただけだった。でも、ついに――。
(つきあい始めたばかりなのにもう俺たち最後までやっちゃうの?)
抗わないと決めておとなしく横たわっていた潤太の身体のラインを、大きな手がなぞりながら下りていく。そしてとうとう意味をもって潤太のソレに触れてきた。
「ひゃぁあん」
ビクッと潤太の全身が跳ね上がった。心臓が張り裂けそうだ。
「あぁ……んっ」
(もう、ソコ、痛いよぉ。なんでもいいからなんとかなりたいっ)
大智の指がスカートの中に入ってきて、下着越しに潤太のソレに絡まると先端からじわん、と粘液が滲みでた。
「吉野」
思わず腰を浮かした潤太は、自分から性器を大智の手に押しつけることになってしまう。
「ふぁん」
ああ、とても気持ちいい。
「んっ、んっ」
理性が緩んでしまって、そのまま数度擦りつけた。
「吉野、気持ちいいか?」
大智に貼りつく下着を引っ張り上げられると、布と皮膚のあいだのヌルっとした不快感にイラっとする。
「やっ、先輩、そういうのやめて」
「これ以上汚れるまえに、脱がしてやろか?」
「ダメっ」
ダメと発して、そこで潤太はハッと我に返った。
(そうだ、斯波先輩にもそこまでさせてないんだから。ダメに決まっているじゃないか!)
不機嫌だった大智に好きにさせてあげようと、自ら絨毯に押さえつけていた自分の両手を解放した潤太は、スカ―トの裾を押さえた。
(俺、ここまで充分頑張った! めっちゃえらいっ‼)
ってことで、
「大智先輩、もうおしまいっ!」
もう終了! 肘をついて伸しかかっていた大智の胸をドーンと突き飛ばす。
「痛 ぇな! つうか、もうおしまいって、おまえ、コレどうする気だよ?」
あからさまに残念な顔で上体を起こした大智が、懲りずに潤太の股間を触れてきた。
「きゃぁっ。ツンツンするなっ!」
「じゃあ、吉野だけささっと出してやるから、パンツ脱げよ」
仕方がないな、というふうに溜息を吐いた大智が、潤太の下着に指を引っかけた。
「いいですっ、いいですっ」
「ほら、はやくしないと俊明風呂から出てくるぞ?」
「だからヤバいんでしょうがっ。もう! 治めるから放っておいてっ」
「別に治めなくてもいいだろ? わかった。じゃあ見ててやるから、さっさと自分で出せよ」
なんでもないことのように大智にティッシュボックスを差し出されて、潤太はキリキリと濡れた目を吊り上げた。
「あんたがいるのに、こんなところでできるわけがないでしょうがっ‼ バカぁ!」
怒鳴る潤太に、またもや大智が溜息を吐く。
「あのなぁ。吉野。俺たち恋人同士なんじゃないの?」
「……?」
「だったら、もうちょっと妥協しろよ? そんなんじゃいつまでたってもセックスできないじゃないか」
「セッ――――っ⁉」
潤太は口をパクパクする。
「な、なに云ってるのっ! セ、セ、セッ……とかっ、そ、そんなのは、結婚してからでしょーがっっ‼」
「…………へ?」
「…………は?」
呆けたような大智の声と、ちょうど風呂から出てきた俊明の唖然とした声が被さった。なにを云ってるんだとでもいうふうにして、ふたり揃ってこちらを見る。
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