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【2020/05 教育】④

《第2週 火曜日 夕方》 スマートフォンで帰りの経路を調べながら駅に向かう。 その途中でふと、スクリーンショットしていた検索結果のことを思い出した。 検索結果の最後数件に表示されていた異質な内容のキャプション。  なりすまし殺害し  衰弱された状態で発見  一部喫食の形跡がみられ  現在容疑者は被害者の子を妊娠していると話しており あまりにも不穏な言葉が並んでいる。 これは先生に関係あるんだろうか。 担当した事件についてだったらあり得るか。 しかし訊くのも流石に気が引ける。 一旦置いて、今は明日の実習の事を考えないと。 《第2週 火曜日 夜》 ダメだ。 あんなに丁寧に指導してもらったのに全然予習復習に身が入らない。 サイズの合ってないスクラブ、肘から指先までのライン、リストカットの傷痕、キスマークを隠した細い首筋、身体のラインが際立って見える私服、髪を掻き回された感触、少し困ったように見えた笑った顔。 全てが悩ましかった。 おれには欲情とときめきの区別がつかないという致命的エラーがある。 バカなんだと思う。 それが命取りになると学習してからは、誰かに好意が湧いても、欲情しても、とにかく圧し殺す事を徹底した。 自分で妄想膨らませて処理するか、金を払って処理を手伝ってもらうかしてそういう感情や感覚を本人に向けないように、おかしな距離感で接さないように、関係に持ち込まないように、ひたすら耐えた。 10年そうやってやり過ごしても、おれは結局変わっていなかった。 安易に欲情して、思い返して反芻して悶えている。 今だって脚の間で息づいて屹立するものを宥めようにも「別に直接先生をどうこうしたいんじゃないんだ」なんて自分に言い聞かせたってまるで通じない。 実際そうなることを回避すべく、発散の手段を身につけようとも、実存する相手に直接触れられたらひとたまりもない。 小曽川さんが二人きりにならないようにとは言ってたけど、完全に回避するのは正直無理だ。二人きりになるのは避けないといけないけど、今日みたいな流れの中では難しいと思う。 そしてもし仮に、あの出先の応接室という、絶対に見つかったら社会的に死ぬような空間で、先生がおれの脚を跨いで、性器に性器を押し付けて、耳元や首筋に口付け、甘噛みし、舌を這わせて、囁いて誘われたら、おれは絶対に拒まないし拒めない。 一度スイッチが入ったら最後までしてしまうと思う。 先生がおれに乗っかって「長谷に挿れたい」と言っても、全然構わない。 細い身体を必死に揺さぶって、あの整った顔が、快楽に翻弄されて余裕を失っていくのが見たい。 抱かれたときどんな甘い声で鳴くのか、抱いて達するときどんな声で鳴くのか。 汗はどういう匂いがするのか。 想像しただけで頭の奥が痺れて、目を開けていられなくなる。 着衣をずらし、脈打ちぬめりを帯びた性器を撫でる。 手も触れていなかったのに既に膝が震え、括約筋が不随意に痙攣している。裏筋に指を当てて揺すると腹の奥が疼いた。 あの薄い唇の中を舌で探りたい。 薄い体躯から筋肉や骨格が浮き上がっているのを愛でたい。 五感に関する情報が足りない。触れたい。 只、先生が欲しい。

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