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【2020/05 教育】⑮
そもそも『短髪、髭、筋肉と脂肪、体毛』がモテの基準になるゲイの世界では需要が少ない、スタンダードではない嗜好だ。
先生のように40代で、小柄で華奢で、色白ですべすべしてて、小奇麗な恰好をしているタイプはレア中のレアだ。
スリム嗜好のコミュニティもあることはあるが、30代までが限度で、それ以上は『枯れ』扱いで除外とされていることも多いので見つけにくく、出会う場が少ない。
そしてこの年代になると性的欲求からそういう場に出入りすることも減り、所謂ゲイコミュニティに染まりきった人というのも少なくなる。
社会的にも婚期を過ぎるため、パートナーの有無やゲイであることに過剰にこだわらず、周囲と折り合いをつけて暮らせている人も少なくない。
にも拘らず、先生ときたら。
実習に備え、先生に案内されて各所を回り、ロッカールームでロッカーの暗証番号を設定してもらった。
併せてスクラブやサンダルもサンプルを借りて体に合わせて、概ね合いそうなものを上下で選び、新しいのをおろしてもらった。
仕事は仕事というスタンスなのか、からかうようなことや意地の悪いことをされたりということはその後特になかった。
約束通り、戻る前にカフェテリアではモーニングを奢ってくれた。
先生はミルクティーにめちゃくちゃ砂糖を入れて、トーストを浸して柔らかくして食べて目玉焼きと食べ、ベーコンやらウインナーやらはおれにくれた。
「小曽川さんから、先生は食べないって聞いてたのでちょっと安心しました。」
率直に伝えると「まあ、食べることは食べるんだけどね」と言って下を向いた。
一瞬の間があって「おれ、先に戻っててもいいかな。もうちょいさっきの仕事進めておきたいんだよね」と言うと先生は席を立った。
「勿論です、お忙しいのにありがとうございました」
こちらも立ってお辞儀すると照れたように笑って手を振って去っていった。
神経質で、仕事や教え方が丁寧で、でも、プライベートは乱れてそうで、ちょっと人を食ったような意地が悪いとこもあって、でも優しかったりして、なんだか底が知れないというか、イマイチ掴めない。
只、おれ個人としてはあの華奢な体型と、雰囲気や仕草とか、表情や声や話し方が、あとやっぱり、触られると弱い。
小曽川さんや大石先生には悪いけど、おれは先生のことが知りたいし、話したい。見学が終わった後も、先生と会えるような口実がほしい。
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