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【2020/05 教育】㉑

《第二週 水曜日 夜》 今日改めて、実習に立ち会わせて実感した。 アスリートだけにフィジカル面が強く、体力も気力もあり、察しが良く目敏い。しかも成績面も良好だったのか知識や仕組みを吸収すること、習得したことを応用することに非常に慣れている。 現在の長谷の職位について、飯野から特に案内はなかったが、受け取った名刺に警部補とあった。 高卒で採用されて10年目にして既に警部補、実際は他にも肩書もあって、係長クラスだろう。かなり優秀だ。 そこまで順調に穏当に来れているなら辞令に沿って粛々とやっていくこともできたはずだが、鑑識官試験に志願した理由は何なのか。 父親がいた刑事課に対してそれなりに思い入れがあるのだろうか。いや、だとしたら何故、刑事ではなく鑑識係に? しかも長谷のように、警部補以上になってから特定分野の高度な知識・技能を習得するには通常、警察大学校にて専科または指定職種任用科にて学習する期間が設けられ、それなりに時間がかかり、ノンキャリアであれば尚のこと昇進が遅れることになる。 通常、警部補になるまでの流れとしては、先ず、高卒の場合、警察官は採用試験合格後に巡査として採用され警察学校の初任科に入り基礎訓練を受ける。 配属後、実務経験4年以上で昇任試験を受験するか、所属長の推薦により選抜され巡査部長の選考に通され、 そこから更に実務経験4年で巡査部長から警部補への昇任試験の受験資格を得る。つまり早い者は20代のうちに昇任することができる。 試験を取り零さず、或いは何らかの実績で推薦を得る等して最速で昇進し続けてここまで来ているのであれば、実現は決して不可能ではない。 実際、長谷の年齢は28歳と飯野に聞いた気がする。 ここに、鑑識官試験合格後の警察大学校での期間が乗って、と考えれば18歳での採用から約10年、ほぼ合致する。 一切遅れを出さずここまで来ている長谷が如何に優秀なのか、上から買われているのかがわかる。 同時に、如何に長谷が元来、向上心があるというか、ガツガツした性格というか、上昇志向が強い性格であることや、目標としたものは逃さない意地や意思の強さがあることが垣間見える。 ああ、そういう奴におれは目をつけられたんだ。 改めて困ったな。 ちなみに、その後は警部補として実務経験が4年以上あれば警部への昇任試験の受験資格が得られる。警部への昇任試験に学歴の差はない。最速、30歳代で昇任することができる。 警部になると現場を離れての業務が主となり、また、逮捕状を請求することができるようになる。ノンキャリアであれば概ねそこがゴールだ。 実際はその上の警視まではいけるとされるが、警部としての実務経験年数、実績を基に選考で決まる。また、その選考は国家公安委員会または都道府県公安委員会の指定する者しか選考を受けられない。 ノンキャリアの場合は最速で昇任したとしても45歳前後となり、キャリア組は採用7年目で一斉に、いわゆる準キャリア組は15、6年目前後で昇任することを考えれば、その差は大きい。 そのため、この階級が所謂キャリア/ノンキャリアの大きな壁とされる。 もし長谷が今後、鑑識官としてスキルを積んで、検視官を目指し昇進試験を順調にクリアしていけば、再び警察大学校において本格的に法医学をやり込むことになる。検視官は警部以上の職位の者が警察大学校で法医学を修了後、刑事部長から検視官として指名され就任するものなので、おそらく現刑事部長の飯野が見込んで直々に送り込んで寄越したと考えるのが順当だろう。 だったらこそ、そういう関係になったらまずい。 更に上、警視まで進んで、本部付きの役職や署長副署長クラスになったらと思うと、柄にもなく、単純に嬉しい。 長谷がどこまで目指しているかは分からないが、力にはなってやりたい。 実のところ、長谷を鑑識に採用した人間はかなり見る目があると思う。 だから、頼むから、あまりそういう目でおれを見ないでくれないかなあ、長谷。 おれが悪いのはわかってるけど、からかってる訳でも弄んでる訳でもないんだよ。 おれは、おれを求められたら抗えない。 でも本気になられるのは耐えられない。 利用して、搾取して、ボロボロにしてしまう。 せめて、どんな目で見てもいいから、本気にならないでくれ。

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