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【2020/05 牢獄】⑧
《第二週 木曜日 午後》
自分が理事になっている医療法人の核になっている病院は郊外にある。
普段、移動をタクシーに頼ってて公共交通機関を使わない身としてはもうその時点でかなり負担で、外音が気に障る。
一旦今の住まいに着替えるため戻って、外音が聞こえないように型取りしてイヤーパッドを作ったカスタムイヤホンを着けてそれから向かった。
もともとはそこの勤務医で、そして経営者でもあった父は、定年近くにパーキンソン病を発症した。
発覚する何年か前から首に震えがあり母が気づいて父に診てもらうよう言っていたようだが、本人は自覚がなく楽観視していたようで、診断が遅れた。
服薬を開始するも副作用の幻覚に悩まされ、徐々に末端から動きが鈍くなり排泄のコントロールが困難になっていき、5年ほどで肺炎や腸炎を起こすようになり、体調を大きく崩した。
その後認知症と抑うつによる緘黙と拘縮が進み意思疎通が難しくなり、現在も肺炎や腸炎を繰り返しているため療養型病棟に入院している。
リハビリを行うのも困難になって、完全な寝たきり状態になってもう2年半ほど経つ。
経営者としてやっていた業務をおれが引き継いだ。
母も同じ敷地内にあるサ高住(サービス付き高齢者住宅)に入っていて、健康状態は良いためだいたい毎日、概ね母は昼食を摂ってから父の病室に向かい夕食前まではずっと付き添っている。
なので、義理の実家には今は誰も住んでいない。
おれ自身、医学生になったのを機に実家には滅多に帰らなくなった。
父が入院してからは、半月に一度程度顔を見せるようにしていたが、今回初めて一ヶ月近く訪問せず、連絡も断っていたら母から要請が来た。
正直、母とは折り合いが悪い。基本的におれが悪いから仕方がないが。
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